インディカー・シリーズ第15戦ゲートウェイの決勝レースが24日に開催され、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が今季2勝目を挙げた。
ワールドワイド・テクノロジー・レースウェイ・アット・ゲートウェイがあるのは、イリノイ州マディソン。すぐ西を流れるミシシッピ川を渡ればミズーリ州最大の都市セントルイスだ。全長1.25マイルの非対称オーバルコースと、ドラッグレース場も併設されているモータースポーツパークは、アメリカ中部のモータースポーツのメッカとなりつつある。
インディカーはCART時代の2000年にゲートウェイでの初レースを行い、2001~2002年はIRLがレースを開催。ところがそこで一旦インディカーのレーススケジュールから外れた。
2017年にゲートウェイはインディカーのカレンダーに復帰。新しいプロモーターはアメリカ中部で積極的にレース復活を宣伝し、2017年のレースからグランドスタンドには熱気が漂っていた。それは2018年も変わらず、今年は週末が好天に恵まれたことも手伝い、スタンドをほぼ埋め尽くす大勢の観客が集まった。
インディカーの魅了が一段高まるナイトレース、土曜の夜のスタート、この時期のセントルイスとしては珍しい、暑過ぎない快適な天候がプラスされ、最高の舞台が整った。
熱狂的なファンの目の前で248周のバトルを戦い抜いてウイナーとなったのは、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)だった。先週のポコノでは1周目にアクシデント。
その引き金を引いたと非難を集めもしたが、彼が危険なドライビングをしていないことを支持するチームは、走行データを確認し、「琢磨だけが原因ではなく、あれはレーシングアクシデントだった」との見解を主催者のインディカーに提出し、それを公に発表した。
チャンピオン争いをするアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)がリタイアに追い込まれたこともあり、SNSでは賛否両論が飛び交い、ヒステリックな琢磨批判や、心ない投稿もアップされた。
「ペナルティとして1レース、あるいはそれ以上の出場停止をとすべきだ」という声まであった。元インディカーチャンピオンで、現在はテレビの解説者を務めるポール・トレイシーがその先頭に立っていたようなところもあった。
しかし、インディカーは琢磨にペナルティを科すことはなかった。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの主張、データの提供などもあり、多角的にアクシデントを分析した結果、琢磨だけを責めるのは正しくないと判断したのだ。
重苦しい思いもしながらゲートウェイ入りした琢磨は、昨年大苦戦をしたコースで予選5位という素晴らしい成績を挙げ、3列目イン側グリッドからスタートを切った。
今週またアクシデントとなったら何を言われるかわからない。余計なプレッシャーがかかる状況で、琢磨は慎重にスタートを切った。
そこを突いたジェイムズ・ヒンチクリフ(アロウ・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)が1周目のターン1で琢磨のインサイドに飛び込み、オーバースピードでの進入となったことから、バランスを崩して琢磨にヒット。
スピンに陥りかけた琢磨は外側にいたライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)とも接触し、非常に危ない状況となったが、何とかクラッシュは避けた。
しかし、アクセルを緩めた琢磨を多くのマシンを抜いておき、1ラップを終えたところで13番手にまで順位は下がった。せっかく頑張った予選が台無しとなった。
マシンのハンドリングも想定より悪く、琢磨はさらに後退。1回目のピットストップを早めに行ったことで、1周の周回遅れに陥った。
■2周遅れからの大逆転
それでも冷静に、辛抱強くチャンスを待つことを決意。低い気温と路面温度となったコンディションでのセッティング調整をしながら、燃費セーブも心がけて周回し、レースが後半戦になってからスピードアップを果たした。
248周のレースの188周目、琢磨はトップに躍り出た。4ストップ作戦が当たり、この時点でリードラップにいたのは上位4台だけ。ピット作業を終えても琢磨はトップを維持できた。
最後のグリーンフラッグは205周目。琢磨の後ろはトニー・カナーン(AJフォイト・エンタープライゼス)、エド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)というふたりのベテランで、その後ろにはポイントリーダーのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)、ポイント2番手のアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)、今回驚くべき速さを見せ、97周をリードしたルーキーのサンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン・レーシング)がつけていた。
残り50周を切ってのリスタートで、琢磨は非常に落ち着いていた。リスタートが得意なカナーンを警戒してのダッシュを成功させると一気にリードを広げた。ところが、そのカナーンを残り5周でパスしたカーペンターがグイグイと差を縮めてくる。勢いなら完全にカーペンター。そう見えていた。
それでも琢磨は冷静で、テール・トゥ・ノーズで迎えた最終ラップでも絶妙のライン採りでトップを堅持。最後のターン4からの立ち上がりでカーペンターは最後の力を振り絞ってアウト側から逆転を狙ったが、半車身届かず! 0.0399秒という僅差で琢磨がウイナーとなった。
ショートオーバルでの優勝、1シーズン複数回優勝はどちらも日本人初。またしても佐藤琢磨が快挙をやってのけた。しかも、来週の第16戦は昨年琢磨が優勝したポートランドだ。
「映像などの情報が限られていたことで、正しい判断をしてもらえない状況になっていました。それでチームはデータをチェックし、自分がライン変更をしなかったことを示すステイトメントを出してくれました。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは全面的に私を支持してくれました。本当に感謝しています」
「チームは一体感を改めて強くし、ゲートウェイに向かいました。スタートで大きく遅れ、周回遅れになりました。序盤のマシンはタービュランスの中でハンドリングが良くなかった」
「しかし、2スティントを走って様子を見た後にセッティングを調整し、最後のピットストップの前に非常い速いペースを保ち続けることができました。リードラップへの復活を目指して戦い続け、それを実現した後にはフルコースコーションのタイミングの味方もあって、ピットストップをしてもリードラップ、そしてトップを守ることができました」
「コース上からスコアリングパイロンを見ると自分がトップで、チームに聞いても自分がトップだという答えが返って来ましたが、すぐには信じることができませんでした。しかし、自分たちがトップだとわかり、もうピットストップをしなくてもいい周回数しか残っていない状況になりました」
「トラフィックの中ばかりを走っていたマシンは、先頭を走ることでリヤタイヤへの負担を大きくし、ゴールが近づいてから大きくペースを落とすことになりました。しかし、こうして優勝することができ、本当に嬉しいです」と琢磨は話した。
厳しい状況を乗り越えての優勝。クリーンに、そしてスマートに戦い抜いて最高の結果を獲得したことで、琢磨を非難する声は消えていくことになるだろう。