働き方改革の流れで「リモートワーク」や「在宅ワーク」が推奨されている。2020年の東京五輪で予想されている交通機関の混雑回避のために、対策を検討している企業も多いだろう。
キャリコネニュース編集部の記者も8月、試験的に2日間のリモートワークを行った。実施前、「リモートワークは人の目がなくだらけそうで怖い。出来るなら出社して働きたい」と考えていた筆者だが、体験して感じたメリットは想像以上だった。
筆者の自宅と会社は電車で40分ほどの距離にある。出社は10時台、フレックスなので退社時間はまちまちだが、毎日30分~1時間程度残業している。業務中は、間仕切りのない机の向かい側にいる上司や臨席の同僚と共に、ネタの提案、電話取材(必要に応じて現地取材)、執筆、記事の編集などを進める。今回のリモートワークでは、上司との連絡はすべてSlack上で、文字のみで行った。
社会性フィルターを通さず「変な姿勢」で働けることのありがたみ
まず、朝にフル充電状態で仕事にとりかかれることがなによりの利点だった。通勤がなく時間にゆとりができるため、普段はおにぎりを食べたか食べないかで済ませる朝食も、ご飯と味噌汁とおかずを用意して椅子に座り、落ち着いて食べることができた。
最近は21時を過ぎて夕食を摂るのが日常になり、就寝時間もずれ込みがちだった。本当なら早く起きて家事や勉強を進めてから出社したいのに、ギリギリに起きてやや遅めに出社し、その分退社が遅くなり……という負のスパイラルが続くと、「今日もできなかった」という記憶だけが積み重なっていく。在宅の仕事なら通勤がない分長めに寝ることも、起きて家事や勉強を進めることもできる。時間の余裕は気持ちの余裕に直結する。
また筆者は、たとえ快適に目覚めて家を出ても、電車の揺れや匂いで体調が悪化し、出社前に気力と体力を削られることも多くあった。仕事を始める前にこうしたロスがないのはとても幸せだった。
記事の作成に取り掛かってからも、業務効率の面で良いことづくめだった。出社時は自分が記事を書く間、周りで雑談が始まることもしばしばある。それも楽しいのだが、文章を書きながら別の話題のことを考えられない自分にとっては、集中が削がれる瞬間でもある。電話取材の際も、社内の話し声が聞こえると頭の中がごちゃごちゃしがちで、いつも緊張を強いられていたが、自室では誰かの声が耳に入ることもないため、集中して取り組めた。
自由な姿勢、表情で働けることも利点だ。会社にいる間はある程度行儀よくする必要があるが、自宅であれば椅子の上で体育座りをしても、口をひん曲がらせてもよい。化粧もしないでいいい。普段は原稿作成以外で消費されている気力を、仕事に充てることができたように思う。
会社員の人は職場で、「今1分目を閉じたら絶対に回復する眠気なのに眠れない、その結果眠気が長引いて辛い」時はないだろうか。リモートワークならこうした葛藤とも無縁だ。席についたまま1分後にアラームをかけ、一瞬仮眠して生き返ることが出来る。お弁当ではなく炊きたてのあたたかいご飯を、好きな食器で食べることも出来る。労働のための生活ではなく、生活のための労働であると改めて感じた瞬間だった。
乳幼児やペットがいたら、同じ集中度で働けるか?
「緊急ではないが重要なこと」に積極的に取り組めたのもリモートワークのおかげだ。仕事中に気になった分野や話題を業務終了後に調べようとしても、帰宅ラッシュの車内ではスマホの操作もままならない。帰宅後は家事に追われて時間がなくなったり、面倒くささに負けてしまったりして、結局ほったらかしにしがちだ。リモートワークでは業務終了後すぐに他の作業に移ることが出来たため、面倒くささを感じる前にタスクを片付けることができた。
体力と気力が削られない分、「明日の朝やろう」「週末やろう」と延ばしがちな勉強も少しずつ進められた。毎日何かを積み上げている実感を持つことは、自己肯定感の向上にも繋がる。会社にとっても、社員の自己研鑽が進むことにデメリットはないだろう。
一方で、いくつかの課題も感じた。自宅の椅子は折りたたみ式で長時間座ることを想定していない。本格的にリモートワークを行うなら、作業に適した椅子が必要になるだろう。ネット環境に作業効率が大きく左右されるのも痛い。
筆者は独身一人暮らしのため問題はなかったが、乳幼児やペットがいると、予期せぬタイミングで仕事を中断せざるを得なくなる。今回と同じ快適さで働けるかどうかはわからない。また、リモートワークが長期に渡り、誰とも会話しないで終わる1日を繰り返せば、それはそれで心がしぼんでいきそうな気もしている。
会話がないことの利害は表裏一体
今回、職場との連絡は全て文字を通して行ったが、音声コミュニケーションを取らないことはメリット・デメリット両方を孕んでいた。筆者にとっては、相手の声色から指示内容以外のものを感じ、「私の仕事や言動でイライラさせているのでは」などと不安にならずに済み、役割に徹することができて快適だった。しかし上司は、会話で伝えたほうが早いことを文字で伝えるのはまどろっこしさがあったようだ。出社後に感想を聞くと、
「記事の細かいニュアンスなどは口頭で言ったほうが楽。複雑でトリッキーなネタだと、チャットだけで指示を出すのは少し大変。Slackの音声通話機能でコミュニケーションを取るなど、改善の余地がある」
と話していた。
1日目は部屋のすみにある洗濯物が気になって、集中力が落ちた瞬間もあった。ただ、これは部屋を整頓したり、机の配置を変えて目に入らないようにしたりすればすぐ解決できることでもある。他にも、気分をしゃっきりさせるために出勤時と同じ服装をしたり、食卓と作業机を分けたり、業務中とそれ以外の時間で部屋の香りを変えたり、オンオフのスイッチは工夫次第でいくらでも切り替えられた。
通勤や出社によって私達は、程度の差はあれ人の目を気にしながら働いている。他人の目に晒されて感じる緊張感は、想像以上に生産性を下げているのかもしれない。リモートワークを終えた今、「通勤・出社はオワコン」と感じている。