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武田真治演じるママの愛情たっぷりの指摘 『凪のお暇』それぞれが自分の課題に気づきはじめる

2019年08月24日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『凪のお暇』(c)TBS

 「あんたが会話のボールを投げられない理由は何でしょう? ……あんたが、相手に興味ないからよ!」


参考:『凪のお暇』はセオリー通りには進まないからこそ面白い! “人間の多面性”を映し出す巧みな構成


 『凪のお暇』(TBS系)第6話。物語はいよいよ折り返し地点を迎え、登場人物たちはそれぞれ自分の中にあった課題に気づきはじめる。


 凪(黒木華)はスナック『バブル』で、“しばしのお暇“をお暇して、ボーイとして働くことに。そこで気づかされたのは、自分が人間関係の根底である“興味を持つ“ということが、著しく欠けていたこと。


 「そもそも、なんで相手に会話のボールを投げてもらう前提なの? 何様!? あんたってもしかして自分のこと“私って聞き上手なタイプ~“とか思ってない? 本当の聞き上手っていうのは、相手の打ちやすいボール先に投げてあげてるから! あんたの場合は、あんたが相手の顔色うかがうばっかりで、何のボールも投げてこないから相手が気を使って話題を作ってくれてるだけ!」


 ママ(武田真治)からの、的確勝つ愛情たっぷりの指摘を受けて、やっとなぜ自分が人と関わったときに息苦しくなるのかを理解する凪。同調はしていたけれど、本当の意味で共感はしていなかったということ。「わかる~」と語調を合わせたところで、本当に心の波長が合っているわけではなかったということ。


 “興味を持つ“なんて、実にありふれた言葉だが、改めて考えてみると、何をもって“興味
“というのか。その概念は実にあやふやだ。「この人に気に入られなければ」と怯えるのも、「この人を打ち負かしたい」とマウントを取るのも、“興味を持っている“状態にも見える。だが何か違う。それは、きっと興味ではなく干渉というのだろう。


 ママのいう“興味を持つ“とは、“愛情を持って接する“の入口に立つということなのだ。興味を持つ→相手を知ろうとする→知ることができた相手の考えを理解しようとする→相手の想いを尊重しようとする→愛情を持って接する……。興味がなければ、そのスタートの位置にも立っていないということ。そこに、凪は気づけていなかった。


 そつない対応をとることが空気を読むことだと思っていたが、本質的に空気を読むとは相手の心のドアにノックして、どんな状態なのかをうかがうこと。その反応次第では、そっとしておくこともある。それが、空気を読むということだ。


 慎二(高橋一生)が、「こういう店はもてなす側のやさしさで回ってる」と言ったのも、きっとママの愛情ある接客に救われた1人だからだ。凪のことが好きなのにうまく気持ちを伝えられず、どんどん離れていく歯がゆさに泣き崩れていた日々も、思い返せばいつだってママは慎二の本音を引き出すことに徹していた。


 相手の愚痴を聞くことも、涙を流した相手に肩を貸すことも、小さな愛情のキャッチボール。人間とは、そんなふうに持ちつ持たれつで生きている。自分が苦しいというときに「苦しい」と言える相手がいるかどうかは、もしかしたらそれまで興味を持ってきた人がいるかどうかなのかもしれない。


 凪は、ハローワークで知り合い、ちょっと空気の読めない龍子(市川実日子)がブラック企業に転職したことを知ると「ほっておけない」と走り出す。詐欺まがいなことをしているという実態を知りながらも、誰にも相談できず、頑なに前を向くしかないと思っていた龍子。その手を取り、一緒に逃げ出す。そこに慎二が駆けつけたのも、慎二にとって龍子は、大事な凪の大事な人だとわかったからだろう。


 では、なぜ凪がこんなふうに“興味を持つ“ことに、消極的になってしまっていたのだろうか。それは、母・夕(片平なぎさ)との関係に原因があるように見える。母の「ちゃんとしてるの?」という強いしつけの結果。興味を持つことと、干渉することの差がわからなくなったからかもしれない。会話のキャッチボールで「自分から投げるのはハードルが高い」と感じるのは、凪自身がきっと求めていないボールを受け続けたせいではないか。


 現実でも、その干渉こそが愛情だと思いこんでいる人は少なくない。「興味(愛情)」と「干渉」は、“相手を知りたい“という衝動が非常に近いものに感じる。だが大きく異なるのは、そのボールの先に、相手を理解しよう、尊重しようという想いがあるかどうか。そして、抑えきれないほどの“うふふ“な笑顔と、一緒に「わかる」と言い合えるかどうか。


 似ているようで違うことを改めて見つめ直し、丁寧に1つずつクリアにしていく『凪のお暇』。ゴンは「好き」と「恋」の違いに驚き、慎二は「サラサラヘアだったころの凪」と「オフィスラブの彼女」の間でもがいている。果たして、それぞれがどのような展開を迎えるのだろうか。そして、登場人物1人ひとりの抱く本音を知りたい、理解したいと願う視聴者とこのドラマこそ、すでに愛が芽生えているのだ。


(文=佐藤結衣)