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“暴力わらしべ長者ゲーム”『JUDGE EYES:死神の遺言』、最大の魅力はストーリーにあり!

2019年08月24日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 そろそろ色々な意味で落ち着いた頃でしょうか。


 そんなわけで今回は『JUDGE EYES:死神の遺言』(2018年)の話です。歌舞伎町そっくりの街・神室町を舞台に、安心安全の『龍が如く』ブランドが、木村拓哉ことキムタク主演で贈る探偵アクション。昨年末が発売で、もうけっこう時間が経っていますので、既にやり尽くした方も多いでしょう。しかし「キムタクがコンビニを破壊しながら戦う」など、散々おもしろいプレイ動画が出回りましたし、そのあとに“騒動”もあったりして、「プレイしてないけどタイトルだけは聞いた」「面白そうだけど遊んでない」という状態の方もいるのではないでしょうか? ちょうど先月に廉価版が発売されましたし、今回は今が色々な意味で落ち着いたと判断し、このゲームをプレイしていない方に向けて、本作の魅力を語っていきたいと思います。


(参考:キムタクが何度でも「ちょ待てよ!」 『JUDGE EYES』特典グッズに見る龍が如くスタジオのサービス精神


 まず結論ですが、本作最大の魅力はストーリーです。ただ、この点が本作のレビューを書くのを難しくしています。と言うのは「とにかくネタバレなしの状態でプレイしてほしい!」と思うからです。本作は神室町を舞台に殺人事件が起きて、そこにキムタク演じる探偵の八神が巻き込まれていく……というお話ですが、これがとんでもない事になっていくわけです。この物語が二転三転していく感じは、できる限り事前情報を入れずに体験するのがベストでしょう。


 ですから、あまり詳しくは書けません(未プレイの方のためにも、書きたくないです)。とはいえストーリーを褒めるのにストーリーについて書かないと、レビューになりません。そんなわけで発売からけっこう経っていることもありますし、なるべく注意して書きますので、少しだけネタバレをご勘弁ください。


 本作の話自体は、王道の娯楽活劇です。探偵モノとなっていますが、エンディングまでプレイした感覚はアクション映画や刑事映画に近い。戦ったら証拠を得て、その証拠で捜査が進んだら、また敵と戦うことになる。スティーブン・セガールの映画でよく見られる流れです。私はこういう形式の物語を“暴力わらしべ長者”と呼んでいるのですが、本作も紛れもない暴力わらしべ長者。そして舞台になっている神室町といえば『龍が如く』で有名な野性のヤクザがウヨウヨいる超危険地帯です。


 本作ではそんな神室町でヤクザが次々と両目をエグられて殺される連続殺人事件が発生して、キムタクはこの事件の真相を暴くために奔走するのですが……。何せ被害者もヤクザなら容疑者もヤクザ。キムタク演じる探偵は行く先々でヤクザと戦うことになります。証拠を探していたらヤクザに絡まれ、時にはヤクザの事務所に「潜入」と言いつつ事実上の殴り込みをかけることも。もちろん探偵要素は非常に充実していますが、それはそれとしてアクション&ヴァイオレンス要素が満載です。そして『龍が如く』のスタッフですから、アクション自体の完成度も高く、キムタクで人をボコボコにするのは爽快感ったらありません。


 しかし「ヤクザが目をエグられて殺される連続殺人」という、割とシャレにならない猟奇殺人がメインにありながら、本作は笑いが絶えないのが驚異的。そんなわけで、ここからちょっとだけネタバレをします。主人公の八神は、探偵になる前は敏腕弁護士として活躍していたのですが、自分の手で無罪にした殺人犯が、一般社会に戻ったあとに人を殺して逮捕されるという最悪の展開に。この件の罪悪感から弁護士をやめて探偵になったという重すぎる背景があるんです。


 エグい事件に重い背景、笑いが入る込む余地ゼロかと思いきや、ところがどっこい。本作はけっこうギャグが多いのです。たとえば序盤、八神が弁護士事務所を訪ねる際のお土産にドラ焼きを買いに行くのですが、買ったあとにいきなりヤクザが「そのドラ焼きをよこせ!」とインネンをふっかけてきて殴り合いに。こうしたギャグ展開がけっこう多いのです。


 登場人物もまた然り。八神の相棒にして兄貴分、元ヤクザの海藤さん。ネカフェで寝泊まりしているハッカーのツクモ。そして八神の元同僚たちなど、みんな個性的で、優しくて、人間ができていて、熱い信念を持っていて、一緒にいるだけで楽しいキャラばかり(本作はキムタクがキムタク役を演じていると話題になりましたが、個人的には中尾彬が“誰もが思い描く中尾彬の最大公約数”を演じているのも嬉しかったです)。陰惨な事件に対して、こうしたギャグやユーモラスな登場人物たちが良いスパイスになっています。


 もしもこれがゲームでなくTVドラマだったとしても、きっと彼ら・彼女らのことが好きになったでしょう。役者の力、そしてシナリオの力を感じますし、本作は脚本が完成してからゲームを作っていったそうですが、このやり方は大成功だったといえるでしょう。


 とはいえ、やはりこれはゲームでやるのが一番だと思います。何故なら「シナリオで最高に気分が盛り上がった状態で、戦闘に入って人を思い切りブン殴れる……!」こうした体験は映画でもドラマでもできません。プレイヤーを実際に操作するゲームだから体験できる痛快さです。本作はシナリオとゲームシステムが見事に合致した非常に完成度の高い作品といえるでしょう。


 「キムタクが如く」というインパクトが前に出すぎているので、いわゆる「ネタゲー」に見えてしまうのも仕方ないでしょう。しかし「ネタゲーでしょ?」で敬遠するにはもったいない作品です。ちょうど7月に廉価版が出ましたので、このタイミングでプレイしてみてはいかがでしょうか?


(加藤よしき)