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多部未華子の涙に詰まった経理部の苦悩 『これは経費で落ちません!』が突きつける仕事の“正しさ”

2019年08月24日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『これは経費で落ちません!』写真提供=NHK

 多部未華子が主演を務めるオフィスドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK総合)。青木祐子氏の同名小説シリーズが原作で、領収書や請求書を通じて見えてくる思わぬ人間模様がコミカルに描かれている。


参考:多部未華子、“ギャップのなさ”で異色ヒロインに 仕事の本質捉えた『これは経費で落ちません!』


 第5話は「流された男の巻」。今回のキーパーソンは経理部内の人間、“勇さん”こと田倉勇太郎(平山浩行)。堅物で真面目に淡々と仕事をこなす、「不正」とは無縁の彼が、とある社員の経理処理を代理申請しているところを見てしまった森若さん(多部未華子)。


 とある社員とは静岡工場勤務で単身赴任している熊井(山中崇)で、高校時代に勇さんと同じラグビー部員同士だったことがわかる。


 不審に思い、熊井の過去の経理データを調べた森若さんは、社員が支払いのために前払いで受け取る仮払い金の申請が、精算を後回しにしながら立て続けに行われている自転車操業状態だったことを発見する。


 皮肉にも勇さんが教えてくれた「契約更新時には気をつけろ」という言説通り、熊井は契約更新に乗じて便宜を図ることと引き換えに取引先から見返りを受けていたことが発覚。


 熊井の娘は病気でお金が必要なんだと肩を持とうとする勇さんに、「お金が必要だからって、会社のお金を使い込んでいいはずがない。他にも方法はあるはず」と正論をぶつける森若さん。さらに「勇さんが熊井さんを止めるべきだったんです」と畳みかける。そう、今回の「流された男」というのは不正を働いた熊井だけでなく(もちろん便宜を図ってもらおうとした取引先の社長は言わずもがなだが)、それに薄々勘付いていながら気づかないでいようと、ある意味“楽な方”に流された勇さんのことをも指している。


 第5話では人の進退にも関わるような紛れもない不正が発覚し、これまでとは少し異なる“重い”題材であったがゆえ、経理部の人間の苦悩が特に炙り出される放送回となっていた。


 ここで森若さんの新人時代の苦い思い出も明かされる。新入社員の出張経費の空請求200万円に気づき指摘をした森若さん。もちろん彼には懲戒処分が下されたが、実は結婚を控えており、「あなたが余計なことをしたせいで、人生めちゃくちゃにされた」と婚約者に押しかけられる。


 退職届を出そうかと悩む森若さんを思い止まらせたのは、他でもない勇さんの一言「経理部として正しいことをしただけだ」。


 経理部として正しいことをした結果、勇さんの大切な人と勇さん自身を窮地に追いやることになってしまうというジレンマに苦しむ森若さん。涙をこらえながらこぼす「正しいからって偉い訳じゃない」という一言が胸に突き刺さる。


 お金に関わるセンシティブな事柄を扱う経理部の人間だからこそ、相手のキャリア、強いては人生自体や、さらにはその人の後ろにいるご家族の生活までをも揺るがし、変えてしまいかねない可能性を手にしている。そのプレッシャー、責任の重さ、疑いたくはないのにも関わらず揃ってしまう証拠の数々を前にした時に下さなければならない判断など。自分自身の精神をすり減らしながら対応しなければならないあれこれに想いを馳せずにはいられなかった。


 森若さんが珍しく弱っている時にタイミングよく現れた山田太陽(重岡大毅)。イーブンが難しいという理由で誰かといることを避けてきた森若さんが、人と一緒にいることを自ら選んだ貴重な瞬間に立ち会えた。


 次週は経理部にまたキャラの濃い新人(江口のりこ)が投入され、ベッキー演じる秘書役も新登場と後半戦もますます目が離せなくなりそうだ。(楳田 佳香)