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唐田えりか、『凪のお暇』で頭角を現す 物語に“清涼感”をもたらす第2のヒロインに

2019年08月23日 17:12  リアルサウンド

リアルサウンド

唐田えりか『凪のお暇』(c)TBS

 『凪のお暇』(TBS系)にてタクシーで我聞(高橋一生)の手に触れ、急接近した市川円。このシーンは原作漫画には登場せず、キャラクターの強さを観る者に印象づけ、その動向から目が離せない人物を演じているのが唐田えりかだ。


【写真】手を繋ぐ我聞と市川


 我聞が彼女の存在を意識し始めているように、一つの見立てをするならば、市川は本作において、ヒロイン・凪(黒木華)に続く“第二のヒロイン”的なポジションだと言えるだろう。とはいえ、第5話にきてようやく彼女が大きく動き出したように、まだまだその役どころが掴めない存在ではある。連続ドラマという性質上、まだ5巻までしか刊行されていない原作漫画にないものが描かれることは確実で、市川の立ち振舞によって、作品の感触は今後どんどん変わっていくことになるはずだ。


 演じる唐田は、艶のある黒髪をなびかせて笑顔を見せ、泥沼化も予想されるドラマ展開に、一種の清涼感をもたらしている。しかしこれも、“今のところは”である。我聞が、“ストレートヘア”、“空気を読んでしまう性格”の凪と市川を、どこか重ねて見てしまっているのは事実であって、彼を間に挟んでの、女性二人の対峙にも期待を持ってしまう。


 一見おとなしそうな見た目ながら、そっと(かつ大胆に!)市川が我聞の手に触れたシーンは、多くの視聴者の方の胸をザワつかせたに違いない。“利発さ”とは少しばかり異なる彼女の朗らかな声は愛嬌とも受け取れるものだが、人物相関を眺めてみれば、ヒロインの黒木をはじめとする手練の先輩女優陣の中、唐田の瑞々しく、かつ、どこかたどたどしい演技が、この市川というキャラクターに見事にマッチしているのだ。


 そんな唐田だが、ここ1、2年でメキメキと頭角を現しはじめた女優だということはどれくらいの方がご存知だろうか。唐田えりかという女優自体の存在の大きさに気づいている方にとっては、やはり昨年公開された『寝ても覚めても』で演じたヒロイン・朝子の姿が記憶に新しいはずである。それまでにもいくつかの出演作はあったものの、映画での大役を務めたのは本作が初であり、柴崎友香による小説を原作に、世界からその才能を注目されている濱口竜介監督の商業デビュー作として、東出昌大とともに最高のコラボレーションを果たした。同作は第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、その後、世界各国で配給。唐田自身も堂々たる世界デビューとなり、国内ではいくつかの女優賞を受賞。これからの女優人生の初期のキャリアとして華々しい結果を残したのだ。二人の男性に翻弄されながらも自らの意志に従って突き進むというヒロイン像に、打ちのめされた方も多いことだろう。本作でもまた、唐田の瑞々しい演技があってこそ花開く瞬間が数多くあったのだ。彼女だからこそ立ち上げることのできた、ヒロイン像であっただろう。


 かと思えば、直後に公開された『覚悟はいいかそこの女子。』では、少女マンガが原作の高校生ヒロイン役でも健闘。彼女はまだ21歳とあって、さまざまなヒロインポジションで重宝される貴重な時期なのである。山戸結希が監督・企画・プロデュースを務めた『21世紀の女の子』内の一編『離ればなれの花々へ』でもヒロインの一人を担い、同作に監督が込めた想いを、妙妙たる言葉と身体とで体現した。彼女の立ち位置は同作において“顔”とも言えるものであり、その振る舞いは、作品に名を連ねた“女の子”たちの輝かしい未来を予見させるものに感じられたのだ。


 ドラマでは、山崎賢人、門脇麦、新田真剣佑、新木優子といった期待の若手俳優陣が一堂に会した『トドメの接吻』(2018/日本テレビ系)に顔を見せ、今年は『デジタル・タトゥー』(NHK総合)で主要な役どころを演じ、飛躍的な活躍ぶりを見せているところだ。映画にドラマに、唐田の存在が欠かせなくなる日も遠くはないだろう。


 さて、今後の展開が非常に気になる『凪のお暇』だが、唐田が演じる市川はどんな動きを見せていくのだろうか。今作が、成長期にある唐田えりかという女優にとって、大きな意味を持つ作品となりそうだ。


(折田侑駿)