玉川大学脳科学研究所は8月20日、「努力をして得た報酬の方が、何もしないで得た報酬よりも主観的価値が大きくなる」という脳のメカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。研究成果は、日本時間8月15日、Nature communicationsに掲載された。
研究では、2頭のニホンザルにハイコスト課題とローコスト課題を行わせた。ハイコスト課題では、最初にハイコストであることが刺激で示された後、報酬であるジュースを得るために、目の前の画面に呈示される点を1秒以上見つめ続けなければならない。一方でローコスト課題では、ローコストを示す刺激が与えられた後、ジュースが与えられるまで、画面のどこを見ていても構わない。どちらの課題でも与えられるジュースの量は同じだ。
ハイコスト課題は嫌いだが、報酬の価値の感じ方が変わる
刺激への反応時間や試行のエラー率から、サルは明らかにハイコスト課題を嫌っていることが分かった。しかし、コストの後に報酬が来ることを指示する刺激への反応時間は、ハイコスト課題のほうがローコスト課題より有意に早かった。これにより、サルはハイコスト課題で得られる報酬を好んでいることが分かった。
また、この課題遂行中のサルの中脳ドーパミンニューロンから電気信号を記録・解析した。中脳で放出されるドーパミンニューロンは、報酬に基づく強化学習に重要な役割を果たしていると考えられているほか、ドーパミンニューロンの報酬予測誤差応答は、価値の相対化に強く関わっているとも考えられている。実験の結果、ドーパミンニューロンの報酬予測誤差応答から、サルの脳は、ハイコスト課題での報酬のほうが価値が大きいと判断していたことが分かった。
さらに、ハイコストとローコストの設定は同じまま、2つの刺激の中から報酬刺激を選ぶことを学習する課題(1つを選べば報酬、もう1つを選べば無報酬)を導入し、サルが報酬刺激を学習することとコストの有無との関係を調べた。この結果、コストがある方が有意にこの学習を促進することがわかった。
研究成果について同研究所はリリースで、「これまでなんとなく、『働いた後のビールはうまい』と言われていた現象がなぜ起こるのかという脳メカニズムを明らかにした」と述べている。