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『Heaven?』活きるレストランという舞台設定 山本舞香らゲストのキャスティングの意味を探る

2019年08月21日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

火曜ドラマ『Heaven?~ご苦楽レストラン~』(c)TBS

 先週までの、つまり1クールの半分以上のエピソードを使って「ロワン・ディシー」のオーナーである仮名子(石原さとみ)から伊賀(福士蒼汰)といった従業員それぞれにフォーカスを当てた物語が展開されてきたTBS系列火曜ドラマ『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』。その流れにひと段落がついたとなれば、必然的に次のステップへとドラマ全体が進まなくてはならない。


参考:ほか場面写真はこちらから


 20日放送の第7話では伊賀が「サービスマンとしての存在意義」を見つめ直すことをきっかけに、特定のお客様を特別扱いすることなく、すべてのお客様に誠実に対応するという“プロフェッショナル”への道の第一歩が切り開かれるエピソードとなった。毎週火曜日になると来る“火曜日の君”と従業員が呼ぶ常連客の香宮(相武紗季)や、上品な出で立ちでひとりでディナーを楽しむ古瀬(加賀まりこ)など、一通り従業員へのフォーカスが済んだことによって、より従業員と客が作り出す、“レストラン”を舞台にした物語としての様相が高まった印象だ。


 それに加えて、これまでのエピソードではあまり目立った印象がなかった、レストランの要である料理の存在も、シェフの小澤(段田安則)が“火曜日の君”のために新メニュー作りに没頭するというくだりで物語にしっかりと機能していることは見逃せない変化といえるだろう。また、伊賀が考える「緊急時に必要のない、余裕があってこそ成り立つ仕事」というレストランの位置付けを、仮名子が「現代人の劣等感」だと一蹴したり、小澤が「役に立たないことは悪いことではない」と否定するところに、第1話の際の当コラムで触れた「16年前に連載終了した原作の持つテーマ性が、現代にも通じる」部分を見ることができよう。生産性や合理性よりも、余裕をもって何かを楽しむことを尊重した方が、きっと人生は豊かになる。そういった考え方が失われがちな今だからこそ、この物語がドラマになったのだと改めて気付かされる。


 ところで、今回のエピソードのゲストとして登場した加賀まりこが演じている伝説の大女優・久世光代の代表作として、劇中に登場する架空の映画『楽しい夜をありがとう』(若き日の久世光代を演じているのが山本舞香というのも、なかなか興味深いキャスティングであったといえよう)。その作品について山縣(岸部一徳)が語る「名作映画」としての位置付けや、堤(勝村政信)が言う「平成生まれだと知らない」という年代感。そして「デートはしても手も握らせず、別れ際に投げキッスをする」という小悪魔的なヒロイン像に、加賀のキャスティングも相まって、これはもう『月曜日のユカ』を想起させられずにはいられない。


 『狂った果実』などで知られる日活の中平康監督が64年に手がけた同作は、横浜のナイトクラブで働く18歳の女性の姿を描いた青春映画の傑作で、加賀の小悪魔的女優としてのイメージを確立させた作品といえるだろう。そのヒロインがパトロンと逢瀬を重ねるのが必ず月曜日というのが同作のタイトルの由来となっているのだが、つまり加賀をキャスティングすることによって作られた同作へのオマージュが、エピソードの前半の軸となった“火曜日の君”という呼び名にも込められているというわけだ。  (文=久保田和馬)