2019年08月21日 10:21 弁護士ドットコム
茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転をして、男性を殴るなどした疑いで、指名手配された男性(43)が大阪市内で逮捕された。
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この際、男性をかくまい逃走を助けたとして、車に同乗していた交際相手の女性(51)も犯人蔵匿(ぞうとく)と犯人隠避の疑いで逮捕された。
NHK(8月19日)によると、2人は同じマンションの上下階にそれぞれ住んでいて、事件のあと女性は男性を自分の部屋にかくまって、食事などを用意していた疑いがあるという。
今回女性が逮捕された、犯人蔵匿、犯人隠避というのは、どのような罪なのだろうか。中原潤一弁護士に聞いた。
ーー犯人蔵匿と犯人隠避という罪は、どういうものですか
刑法103条は、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する」と規定しています。
この刑法103条前段が犯人蔵匿罪、刑法103条後段が犯人隠避罪です。
ーー「蔵匿」「隠避」とは、それぞれどのようなことを指していますか
「蔵匿」とは、警察等の官憲からの逮捕・発見を免れるような場所を提供して犯人をかくまうことを言います。自分の家にかくまう、というのが典型例です。
一方で、「隠避」とは、蔵匿以外の方法によって警察等の官憲からの逮捕・発見を妨げる一切の行為を言います。例えば、犯人に逃げるためのお金を与える行為や、犯人の発見・逮捕を妨げるために警察に積極的に虚偽の供述をする行為などが挙げられます。
ーー今回の事件では、女性が「指名手配されていることを知りながら」というのがポイントになるのでしょうか
実はなかなか難しい問題です。今回の事件でいうと、女性が、男性が車に乗っていた男性に対し暴行しているのを見ていたかがポイントになると思います。
まず、女性が、男性が暴行をしているのを見ていた場合、男性が「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」にあたるので、指名手配の有無とは関係なく、自分の家にかくまっていたら犯人蔵匿罪が成立するのではないかと考えます。
一方で、この女性が、男性が暴行をしているのを見ていなかった場合、その時点では「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」にあたるかはわかりません。
しかし、指名手配がされた後は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」にあたると考えられているので、指名手配がされていることを知りながらという点がポイントになると考えられます。
ーーどのような犯罪が「罰金以上の刑に当たる罪」なのか、把握している必要もありますか
今回のケースで言えば、男性がした行為が暴行罪や傷害罪に該当する行為であるとさえ知っていれば、暴行罪や傷害罪が罰金以上の刑に当たる罪かどうかを知らなくても、犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が成立すると考えられています。
ーー今回の事件では、理不尽な暴行の様子が映されたドライブレコーダーの映像もあり、報道やネットでの声が加熱しています
逮捕は、あくまで捜査のために行われるものですから、それだけで罪が確定するものではありませんし、ましてや罰を与えるための制度ではありません。冷静に捜査の行く末を見守ることが、我々に必要なことなのではないかと思います。
【取材協力弁護士】
中原 潤一(なかはら・じゅんいち)弁護士
埼玉弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件を数多く手がけており、身体拘束からの早期釈放や裁判員裁判・公判弁護活動などを得意としている。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:http://luminous-law.com/