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サザン、「愛はスローにちょっとずつ」は40年の年輪が生み出した傑作 音楽に対する変わらぬ愛情

2019年08月20日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

サザンオールスターズ

 昨年6月にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズ。年をまたぎ、6大ドームを含む全国11箇所22公演に及ぶツアーの他、『サザンオールスターズ公式データブック 1978-2019』も出版されるなど2019年になってもなおその精力的な活動は継続。8月12日には今年の目玉のひとつとして新曲「愛はスローにちょっとずつ」を配信リリースした。


 「愛はスローにちょっとずつ」は、リリース前にまず、ツアーで披露されており、ファンの間では早くも話題になっていた。桑田佳祐自身は、ライブ中に「ツアーでお客さんとともに熟成させていく曲」だとMCで紹介しており、実際にそうなっていったのだろう。結果的に、いかにもサザンらしいと言いたくなる、いわゆる王道のバラードというのも嬉しい一曲である。


 少し「真夏の果実」を彷彿させるイントロから始まるこの曲は、〈とりとめのない夢 ひとり寝のララバイ〉というフレーズからストーリーが進んでいく。いわゆる失恋した男の悲しく孤独な気持ちを歌った楽曲であり、おそらく主人公は若くないことが想像される。サビでは〈もう愛なんて要らないさ ひとりで生きるんだ〉や〈愛はスローにちょっとずつ 黄昏(セピア)に染まるんだ〉と歌われ、全体的にノスタルジックな雰囲気が漂う。悲哀と希望が交差するような独特の雰囲気は特別で、サザンのようなバンドだからこそ説得力を持って歌える内容と言えるのではないだろうか。


 サウンド的にもアコースティックをベースに、ビートルズ直系のギターソロやストリングス、そして流麗なコーラスワークで切なく美しく表現している。サザンの曲には御存知の通り、アッパーなロックンロールから一風変わったプログレッシブで実験的なナンバーまで様々なタイプがあるが、一般的に最も人気の高いのはこういったメロディアスなミディアムからスローなバラードだ。そういった意味においても「いとしのエリー」、「Ya Ya (あの時代[とき]を忘れない)」、「真夏の果実」、「BLUE HEAVEN」、「TSUMNAMI」といった彼らにしか作り得ないスタンダードの流れを汲むものであり、これらの名曲にも並ぶ代表曲になりうる一曲である。決して派手ではないが、聴きこむほどにじわじわと心に染み込んでくる。まさに、40年間の年輪が生み出した屈指の傑作といえるだろう。


 「愛はスローにちょっとずつ」は、すでに配信は開始しているが、デビュー40周年を記念した『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』にCDを封入した形態でのリリースも決定した。アナログ盤やカセットが主流だった1970年代末にデビューしたサザンが、CDの時代を経て今や配信がメインとなった令和の音楽シーンでも変わらぬ名曲を生み出し続けている。40年の時の流れは早いが、彼らの音楽に対する愛情や姿勢は変わらない。そんなことを、この「愛はスローにちょっとずつ」のちょっとノスタルジックな雰囲気から感じ取られるのではないだろうか。41周年を迎え42年目に突入した彼らが今後どんな展開を見せてくれるのかが、ますます楽しみにさせてくれる一曲なのである。(栗本 斉)