インディカー・シリーズは、速いだけではチャンピオンになれない。その典型がウィル・パワーだった。彼は2014年に念願のシリーズチャンピオンに輝いたが、チーム・ペンスキーのレギュラーとして戦い始めた2010年から3年連続でランキング2位に甘んじた。
彼を倒して王座に就いたのはダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング)とライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)だった。しかも、2010、2011年の2シーズン、パワーはフランキッティより2勝も多く挙げていながらポイント争いに敗れた。
2003年からの16シーズンを振り返ると、最少の3勝でチャンピオンになったケースが昨年を含め6回あった。その半分の3回がスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だ。
とても効率よく王座を獲得してきたとも映るが、実際にはインディカー史上3番目にランクされる45勝を挙げているのがディクソン。
彼は先々週のミド・オハイオで今シーズン2勝目、通算46勝目をマークし、ポイントスタンディング4番手につけている。
残り4レースでディクソンがもう1勝を挙げる可能性は小さくない。そうなれば、彼は過去3回のタイトルと同じ勝星数に届く。ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)はすでに4勝をマークしているが、ディクソンが彼を打ち破っての通算6回目の王座獲得もおおいにあり得ることだ。
残り4レースで62点の差。これは決して小さくはない。しかし、ディクソンなら、その差を逆転することも可能かもしれない。チャンピオンになるには、とにかくポイントを取りこぼさないことが大事で、そのタスクを最も確実にこなせるのが彼だからだ。
そして、最終戦でのパフォーマンスが極めて重要になる。最終戦はダブルポイントだからだ。2レース分のポイントを1勝でゲットできる。これには賛否両論あるものの、そのルールでもう長いことやっており、ルールに合った戦い方をすることが出場チームには求められている。
インディ500もダブルポイント。しかも、予選でボーナスも出るから1シーズンで最も重要なのはインディ500となるのだが、もうその先に挽回のチャンスが与えられない最終戦の方が、タイトル争いにおける重要性は高くなっている。
ディクソンが5回もチャンピオンに輝いたのは、シーズン後半戦、終盤戦にポイントを着々と重ねる戦い方を実現してきたからだ。
それに対してニューガーデンは、17戦中の13戦目だったミド・オハイオで考えられないようなミスを冒した。優勝をディクソンが手に入れるのが明らかとなっていた最終ラップ、彼は3番手走行中のハンター-レイにアタックしてコースオフ。
4位フィニッシュを棒に振り、14位に転落した。“表彰台に上りたい!”と欲をかいて失敗したのだ。この一瞬の判断ミスにより取り損ねた16点でタイトルを逃す可能性も考えられる状況となっている。辛うじてポイントトップを保ち、王座に最も近いポジションにいるのがニューガーデンだが……。
■注目はランキング2位のアレクサンダー・ロッシ
それに対してランキング2位につけるアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)は、初タイトル獲得という大きな目標に向けて非常に強くフォーカスしている。
昨年も最終戦までチャンピオン争いをしていたが、最後のレースのスタートで前車に追突するミスをしてランキング2位になった。
今年のインディ500でシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)との壮絶なバトルを戦って2位フィニッシュした彼は、“タイトルは必ず手に入れる!”という気持ちをより強く持つようになり、各レースでの自分のマシンの仕上がり具合に合わせたベストのリザルトを得るべく奮闘している。こういう戦いができるロッシは強い。
ショート&ロング・オーバル、ストリート、ロードとコースバラエティが豊富なインディカーでは、大きな波に乗るのが難しい。例えば8から9月の終盤3連戦はスーパースピードウェイでの500マイルレース、ショートトラック、ロードコースとまったく異なる3パターンのレースが3週末に行われる。
まずは今週末のポコノ戦。ここで好成績を挙げることがタイトルコンテンダーには必要。
今季未勝利のパワーやグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)やセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)、ジェイムズ・ヒンチクリフ(アロウ・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、そしてポコノを得意とする佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)らも優勝争いに絡んでくる。
優勝を予想するのも難しい500マイルレースだが、チャンピオンを獲得するには、ここで生き残り上位フィニッシュが必須条件になるだろう。