トップへ

The 1975がサマソニで来日間近。新曲で16歳の環境保護活動家が訴えたこと

2019年08月15日 19:40  CINRA.NET

CINRA.NET

グレタ・トゥーンベリをフィーチャーしたThe 1975の新曲“The 1975“のジャケット
■2020年にリリースされるThe 1975の新アルバムから、異例のオープニングトラックが配信

The 1975が16歳の少女をフィーチャーした新曲をリリースした。

7月末に突如発表された曲のタイトルは“The 1975”。2020年2月21日に発売予定の4枚目のフルアルバム『Notes On A Conditional Form』のオープニングトラックとなる。

The 1975が過去に発表した3枚のアルバムは全て“The 1975”と題されたセルフタイトルのトラックが1曲目に配されており、新作でもその習わしに変更はないようだ。違うのはこれまでのオープニングトラックが約1分半と短い楽曲だったのに対し、最新の“The 1975”は4分超えと過去最長であること。そして楽曲に16歳のグレタ・トゥーンベリによるスピーチをフィーチャーしているということだ。

彼女は現在のイギリスでトップクラスの人気を誇るバンドとタッグを組んで何を訴えようとしているのか、そしてバンドはなぜ新作の幕開けに彼女のスピーチを起用したのだろうか。

■「学校ストライキ」が同世代の連帯を生んだ。国連会議でも大人世代の責任を糾弾したスウェーデン出身の16歳

2003年生まれのグレタ・トゥーンベリはスウェーデン出身の環境保護活動家。彼女は記録的な猛暑と山火事が発生した昨年に、学校を休んで国会前で座り込み、政治家たちに気候変動問題への対策を求める「学校ストライキ」を行なった。その行動は多くの同世代の若者たちにインスピレーションを与え、毎週金曜日に学校ストライキを行なう「Fridays For Future(未来のための金曜日)」として各地に広まっている。

昨年にはポーランドで行なわれたCOP24(第24回気候変動枠組条約締約国会議)に参加し、200近いの国の代表者に向けて「あなたたちは子供をなによりも愛していると言いながら、目の前でその未来を奪っている」と大人たちを糾弾した。

■The 1975の楽曲で気候変動問題に立ち上がろうと呼びかけ。「今こそ市民として不服従すべき時。今が反逆の時」

楽曲“The 1975”では気候変動問題に関する現状に警鐘を鳴らし、人々に行動を起こすよう呼びかけるトゥーンベリの言葉が、バンドが奏でるアンビエントサウンドと、淡々としながらも確かな意志の感じられる声に乗せて運ばれる。

「私たちはいま、気候・環境危機の始まりにいます。私たちはこれをありのままの呼び名で呼ばなくてはいけません。つまり、緊急事態です」。この一節でスピーチは始まる。

さらに「私たちはこの戦いに負けていることを認めなくてはいけません。過去の世代は失敗したと認めなくては。現在の形の全ての政治運動は失敗に終わったのです。でも人類はまだ終わっていません」と続け、状況改善のために私たちにはまだやれることはある、と訴える。

「歴史を振り返ってみれば、社会の大きな変化は全て草の根レベルの人々の行動から始まった。私やあなたのような人です。だから目を覚まして、求められている変化を実現させましょう。ベストを尽くすだけではもう十分ではありません。私たちは不可能に見えることもやらなくてはいけないのです」。

そして世界で1日に1億バレルの石油が使われているが、これを変えられる政治的な手段がないことを指摘し、こう締めくくる。

「もはやルールに従っていては世界を救えません。ルールが変わらなくてはいけません。全てが変わる必要がある。そしてそれは今日から始まらなくてはいけない。だからみなさん、今こそ市民として不服従すべき時です。今が反逆の時なのです」。

気候変動に自分たちの世界が脅かされることへの危機感や、対策を講じない世界のリーダーたちへの怒り、失望。スピーチからはトゥーンベリの切実な想いが十分に感じられる。

楽曲が発表される前の日、彼女は自身のフランス議会訪問をボイコットした保守派の議員たちを「私たちの声を聞かないならそれで構わない。私たちはみんな結局ただの子供ですから。でも科学には耳を貸すべきです」と糾弾していた。

■トム・ヨークやGrimes、現代アート界からもアクションが続々

環境問題・気候変動問題は、国単位ではなく地球規模で取り組む必要のあるグローバルイシューのひとつだ。トム・ヨークやビョークは以前から声をあげており、2015年には同年パリで行なわれたCOP21を前に、自分たちが環境問題に取り組むことの宣言や、会議参加者に向けた持続可能な戦略、計画を立てることへの要望などを盛り込んだ公開書簡にサインしている。

また最近ではGrimesが自身のニューアルバムは「気候変動を擬人化した女神についてのコンセプトアルバム」になると予告した。

音楽だけでなく、美術や演劇のフィールドでも気候変動問題に対するアクションが起きている。美術界では石油会社の活動をターゲットにした運動が活発だ。

7月にはアントニー・ゴームリー、アニッシュ・カプーアら約80人の現代美術アーティストたちがロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーに対し、石油大手BP社との関係解消を求める公開書簡を発表した。石油企業と芸術団体の関係を断ち切るよう訴えるアクティビスト集団「BP OR NOT BP?」も美術館や劇場でたびたびゲリラパフォーマンスなどのアクションを起こしている(参考:「美術館は石油会社との関係解消を」約80人の現代美術家らが訴え)。

■The 1975とグレタ・トゥーンベリのコラボレーションが持つ意義

The 1975はこれまでフィーチャリングという形でアルバムにゲストを迎えたことはない。その彼らが例外的に新作のオープニングトラックに招いたのがグレタ・トゥーンベリだった。地元イギリスのガーディアン紙の編集者ローラ・スネイプスは「この楽曲がトゥーンベリが訴える『現在のシステムの失敗』について何かをしてくれることはないが、The 1975が存在する『現在のシステム』を巧みに利用している」「歌は世界を変えられないが、人々の思考は変えられる」とその意義を分析している。

世界中にいるThe 1975のファンがこの曲を聴くことで、それまで気候変動問題に関心のなかった層にもメッセージを届けることができる。彼らの曲はSpotifyやApple Musicでも簡単に聴くことができるから、ファンではない人が偶然の出会いでそのメッセージにアクセスする可能性も大いにあるはずだ。楽曲が気候変動問題への具体的な策を示しているわけではないが、The 1975の持つプラットフォームを使って問題への関心を喚起するだけでも大きな意味を持つだろう。

■バンドは「環境への影響を最小化する努力」も行なう

トゥーンベリをフィーチャーした“The 1975”の利益は、彼女の要望により環境保護団体「Extinction Rebellion」に寄付される。6月にRadioheadの未発表音源がハッカーによって盗まれた事件でも、データをリークすると脅されたバンドはBandcampで期間限定で音源を公開し、ダウンロード収益を「Extinction Rebellion」に寄付するとしていた。

また国際的な人気のあるミュージシャンがツアーで使わざるを得ない飛行機は大量の温室効果ガスの排出源のひとつであり、ワールドツアーを行なうThe 1975も飛行機での移動は避けられないのが現状だが、バンドの所属レーベルDirty Hitは「環境への影響を最小化する努力を行なっている」という。

Dirty Hitの事務所では使い捨てプラスチック製品の使用を段階的に廃止し、CDのジュエルケースを含むプラスチック製品は今後生み出さないという方針だ。アナログ盤についても生産時の環境への影響を最小化するために今後は軽量盤のヴァイナルのみをリリースするとしている。バンドの次のアーティストグッズは過去の売れなかった商品を再利用して新たな服にするなど環境に配慮したものになるという。

The 1975が社会的なメッセージを訴えるのはこれが初めてではないが、より直接的な表現を込めたトラックがオープニングを飾るニューアルバムはどのような内容になるのだろうか。2020年にリリースされる新作の全貌はまだ見えてこないが、その前に彼らは『SUMMER SONIC 2019』での来日も控える。また現在各地に「PEOPLE 22.08.19」と書かれたポスターが掲出されており、さらなる新曲のリリースも期待されている。