2019年08月14日 10:41 弁護士ドットコム
前の会社を懲戒解雇されたことは隠して、再就職したいーー。こんな相談が弁護士ドットコムに複数寄せられています。
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ある相談者は、暴言などのパワハラ行為により、前の職場を懲戒解雇されました。再就職のため求人サイトに登録しましたが、「書いたら紹介を躊躇するであろう」と思い、職務経歴には懲戒解雇で退職したことを書いていません。
また、盗撮をした疑いで2度逮捕され、懲戒解雇されたという相談者もいました。再就職を考えていますが、退職理由を聞かれた際、正直に「盗撮しました」と言わないといけないのでしょうか。「個人的には、あまり言いたくない」と悩んでいます。
懲戒解雇された事実やその理由を隠して採用された場合、法的に問題はあるのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。
懲戒解雇されたことは隠して再就職したいという相談が複数ありました
「懲戒解雇された事実を秘匿することが経歴詐称に該当するかという問題に帰着します。結論から言えば、経歴詐称は転職先の就業規則で懲戒事由とされていることが多いため、問題となります」
どのようなものが経歴詐称にあたりますか
「経歴詐称とは、採用時に学歴、職歴、犯罪歴等の経歴を偽ることをいいます。
裁判例によると、経歴詐称に該当するのは、面接担当者の質問等に対して虚偽の事実を応答することをいい、質問がないのに自発的に申告しなかった場合は含まれません(長崎地判平成12年9月20日など)。
よって、提出した履歴書に前職の懲戒歴や犯罪歴を記載する欄がなかったり、採用面接の際にもそのような質問がなかったためあえて懲戒歴や犯罪歴を述べなかった場合は、経歴詐称とはなりません」
懲戒歴などを記載する欄があった場合は、どうなりますか
「履歴書の懲戒歴や犯罪歴を記載する欄に『なし』と記載してしまった場合や、採用面接の際にはっきりと懲戒歴や犯罪歴の有無を問われて『ありません』と回答してしまった場合には、経歴詐称に該当することになります。
ただ、ハラスメントの有無がそもそも疑問であり転職後には何ら問題を起こしていない場合、また、犯罪歴が相当前のことであり刑の言渡しの効力が消滅しているような場合には、経歴詐称だけをもって懲戒解雇などの重い処分が有効に科される可能性は高くないでしょう。
なお、市販の履歴書でよく見る『賞罰』欄の『罰』とは刑事罰を意味するので、前職での懲戒歴を賞罰欄に記載する必要はありません」
「懲戒解雇」とはいわず、あいまいな答え方をした場合は、どうでしょうか
「実際に最も多く問題となりえるのは、転職面接の際に前職を退職した理由を問われたときに、『会社都合による退職です』という程度の回答にとどめたような場合でしょう。
この場合は虚偽の申告をしているとまでは言えず、経歴詐称とまでは言いがたいとも思われますが、弁護士の間でも意見が分かれるところでしょう」
離職票や退職証明書は、求められたら提出しなければならないのでしょうか
「離職票の退職理由には『懲戒解雇』と記載されていることも多いので、前の会社に依頼して、端的に○年○月○日付で前職を退職したことのみを証明する旨の退職証明書を発行してもらうといった対応が考えられます」
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/