レッドブル・レーシングが12日、2019年F1第13戦ベルギーGPから、ピエール・ガスリーに代わってトロロッソのルーキー、アレクサンダー・アルボンをマックス・フェルスタッペンのチームメイトに抜擢することを発表した。
これにより、ガスリーはわずか12戦で古巣のスクーデリア・トロロッソに戻ることとなった。
この決定で思い出されるのが、2016年のダニール・クビアトとマックス・フェルスタッペンの交代人事だった。レッドブル2年目のクビアトをトロロッソへ降格させ、トロロッソからフェルスタッペンをレッドブルへ昇格させた、あの非情とも思える人事だった。
というのも、クビアトは2戦前の中国GPでは3位表彰台を獲得していたからだ。しかし、クビアトはその次のロシアGPでスタート直後にチームメイトと接触した後、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)とも接触する大きなミスを犯し、結局それがレッドブルでの最後のレースとなった。
ただし、それだけが降格の理由ではなかった。根本的な問題はクビアトにはレッドブルで戦うだけの資質がまだ備わっていなかったことだ。クビアトのレッドブル昇格は、2014年日本GP時に発覚したベッテルの電撃離脱によって急きょ決定されたプランだった。
2015年のクビアトのパフォーマンスは、ドライバーズポイントではチームメイトのダニエル・リカルドの92点に対して95点を獲得して上回る成績を残したが、予選ではリカルドに対して7勝12敗と負け越したていた。
2年目の2016年もリカルドは開幕から3戦連続でQ3に進出していたのに対して、クビアトはQ1落ち1回、Q2落ち1回と冴えなかった。この年のレッドブルはその後、交代した早々フェルスタッペンがスペインGPで勝利し、モナコGPでポールポジションを獲得したように、戦闘力が高かった。
そのためチームは、開幕からの4戦で不振だったクビアトを早々に見切りをつけ、第5戦からフェルスタッペンの採用に踏み切った。そのやり方の是非についてはさまざまな意見があるものの、その決定が間違っていなかったことはその後のフェルスタッペンの活躍を見れば、わかる。
■成績浮上のきっかけがつかめない三重苦に陥ってしまったガスリー
では、ガスリーの今年の成績はどうだったか。予選、レースとも1勝11敗と一方的な内容だった。ちなみにクビアトの1年目の2015年の12戦目までのリカルドに対する成績は、予選は5勝7敗で、レースでも6勝6敗と接近していた。レッドブルにとって、ガスリーがいかにアンダーパフォーマンスだったか理解できる。
しかも、今年のガスリーは肝心のレースでも冴えなかった。他車を抜きあぐねる一方で、格下とも思えるライバルからオーバーテイクされていたのだ。例えば、開幕戦ではトロロッソのクビアトを最後まで抜けなかった。2戦目のバーレーンGPではマクラーレンのランド・ノリスにオーバーテイクを許す。
第7戦カナダGPではランス・ストロール(レーシングポイント)を抜けず、8戦目のフランスGPと9戦目のオーストリアGPでは3強チームで唯一の周回遅れとなった。第11戦ドイツGPではアルボンを抜こうして追突。第12戦ハンガリーGPではスタート直後にマクラーレンの2台とキミ・ライコネン(アルファロメオ)にも抜かれる失態を演じていた。
予選が遅く、スタートでのミスも多く、バトルで競り負けるという三重苦に陥り、精神的にも疲弊していたガスリーが降格するのは、時間の問題だった。
クビアトを降格させた3年目の決定が『非情人事』だとすれば、今回はむしろ『有情人事』であり、もしこのままガスリーをレッドブルで走らせ続ければ、ガスリーは完膚なきまでに叩きのめされ、それこそガスリーのレースキャリアにピリオドを打ちかねない非情な人事となっていたかもしれない。
夏休み期間中の発表は、ガスリーが次戦ベルギーGPまでに気持ちを切り替えるための余裕を与えるだけでなく、トロロッソのシミュレーターに乗るなどして、実践的な準備もできるという時間的な余裕を与えることができるという点からも、合理的な決定だったのではないだろうか。