WEC世界耐久選手権を戦うトヨタのテクニカルディレクター、パスカル・バセロンは、過去の経験が2020/2021年シーズンから始まる“ハイパーカー”プログラムに役立つと考えている。
現在、自動車メーカーワークスとして唯一、シリーズ最高峰カテゴリーであるLMP1クラスに参戦しているトヨタは、新車両規定が導入される2020/21年にプロトタイプベースのハイパーカーを走らせる予定。新型ル・マンカーでの最初のトラックテストは2020年夏にスタートする見込みだ。
そんな日本メーカーの技術部門のトップであるバセロンは、過去8年間に渡ってLMP1を戦ってきた経験が新しいトップカテゴリーに挑戦する際に「より良い状況をもたらす」とし、OEMメーカーとして直接のライバルとなるアストンマーティンに対して、何らかのかたちで優位に立つことを示唆した。
バセロンは、TS050ハイブリッドでのプログラムがどの程度ハイパーカーとクロスオーバーするのか、という質問に次のように回答した。
「直接的にはほぼないが、ノウハウやプログラムの原則という点では、そう、かなり多くのものを引き継げるだろう。なぜなら、我々はル・マンで最高の性能を発揮しなければならないクルマについて話をしているからだ」
「仮に新しい規則によってすべてのパーツを新しいものにする必要に迫られたとしても、多くの知識と技術を持ち越すことができる」
「(ギリギリとなった)スケジュールのせいで誰もが困っているが、我々は少なくともどの分野の技術を使いたいかは分かっているため、状況はわずかに良いところにいるはずだ」
「各種コンポーネントはなるべく現在のクルマから使うようにする。しかし、車両規則が大きく異なるため、基本的には新しいクルマで再出発を切らなければならない」
トヨタは『GRスーパースポーツ』ベースのハイパーカーについてまだ技術的な詳細情報を明らかにしていないが、Sportscar365はパワートレインの構成が開発内部で確認されていることを理解している。
バセロンもハイパーカーの開発が「どの方向に進むかは、すでに定まっている」と説明する。
「私たちはプログラムの重要な方向性を決定し、プロトタイプのオプションを選択した。また、パワートレインにどのようなオプションがあるのかも分かっているが、これを公開するには時期尚早だ」
「我々はレギュレーションで認められた開発を行っており、その作業は95%に達している。そして、この他の分野でも全力で開発に取り組んでいる」
また、バセロンは引き続きTS050ハイブリッドで行う2019/20年のプログラムと新しいハイパーカープログラムの開発がスタートしたことで、両プロジェクトに余計なプレッシャーが掛かったと語った。
■2019年型TS050に問題があった場合、ハイパーカー開発に影響も
先に述べたように、トヨタは新型ハイパーカーのトラックテストを2020年の夏にスタートできるよう計画している。つまり、2020/21年シーズンのオープニングイベントまで5カ月を切った時期となる。
「クレイジーだよ、何もかもが遅れている。我々は多くのものをショートカットさせてこれに対応している」とバセロン。
「今年のLMP1カーに信頼性の問題がないことを願っているよ。なぜなら、私たちのスタッフにはそれに対応、再設計するチームが居ないからだ」
「2019年型TS050ハイブリッドはレースチームに割り当てられ、開発チームは現在、ハイパーカーのみに集中しているんだ」
新規定の発表から間もないにもかかわらず、彼はこのハイパーカー規定がスポーツカーレースの新しい黄金時代を“キックオフ”することになると楽観的にみている。
「確かに、すべてが遅れているよ。しかし、たとえそれが非常に困難なものであったとしても、素晴らしいシリーズをスケジュールどおりに始めるための時間はまだ充分にある」とバセロンは言う。
「新しい規定をまったく検討していなかった多くのメーカーが、現在では参入を検討している話も聞いている。私には非常に興味深い将来が見えるよ」