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染谷将太が面白い! 『なつぞら』で“場”をつくる巧みな演技

2019年08月13日 08:51  リアルサウンド

リアルサウンド

染谷将太『なつぞら』(写真提供=NHK)

 「面白い!」そう口にする彼を見て、私たちも「面白い」と思わずつぶやきたくなる。


 『なつぞら』(NHK総合)での、染谷将太の演技に対してのことだ。やはり、その佇まいだけで作品を盛り上げてくれる俳優である。


 本作で染谷が演じるのは、神地航也というアニメーター。初登場時から、先の「面白い!」や、また逆に「面白くな~い」などといった言葉を連発し、彼にとって先輩である本作のヒロイン・なつ(広瀬すず)たちに対して、随分とふてぶてしい態度をとってきた。しかしそれは劇中でのみんなが感じていたように、嫌味なものではなく、彼らが手掛ける作品をより良くするための正直な発言であり、そのストレートで的確な意見は、大器を予感させるものであった。


【写真】なつと坂場の結婚式の様子


 こんな神地のことを染谷本人は『連続テレビ小説 なつぞら Part2』(NHK出版)にて、「回を重ねるごとに神地の成長を感じています。入社当時はアニメにしか関心が向いていなかった彼が、周囲を思いやるようになる。人の感情を読めない人がいい作品を作れるわけがない……」と分析している。


 染谷のポジションは、自身の話芸やアクションだけによる物語の牽引ではなく、みんなと“場”をつくるというものである。この“場”とは、シーンのこと、ひいては作品全体のことだ。その中で、“大器を予感させる”という大きな役どころを担っているのである。つまり、物語の核となる部分(ヒロイン・なつの人生)にはまだ大きく絡んでいない印象は否めないが、アニメーターとしてのなつの成長につれて、おそらく彼の存在感も増してくるのだろうということは言える。


 自然とその“場”に馴染み、かつ存在感を残す。子役から積み上げてきたキャリアがある染谷だからこそなせるわざなのだろうか。先述した彼の発言中にある神地のキャラクター性は、ドラマという作品作りにおける、染谷の演じる姿勢にもそのまま反映されているように感じられる。しかし“自然”とはいえ、老若男女を問わず、あらゆる世代が観る朝ドラとあって、その表現自体は多少大仰なものではある。発声、仕草、視線の動き……どれをとってもそう受け取れるのだ。


 現在公開中の黒沢清監督最新作『旅のおわり世界のはじまり』でも、染谷は“クリエーター”に扮している。こちらで彼が演じるのは、日本のテレビバラエティ番組のディレクター。そしてこの映画の主役であり、劇中内の番組のリポーターを務めているのが前田敦子だ。


 映画のカメラも、劇中でテレビクルーが使用するカメラも、執拗に前田を捉え続ける。いずれも主体は彼女なのだ。そして本作での染谷こそ、“自然”に“場”に馴染むということを、非常に高いレベルでやってのけている。


 映画としては彼は撮られる側であるが、劇中でのテレビクルーとしては、撮る側である。染谷が自身でも映画を撮っていることは有名だが、やはりそのリアルな経験が大きいのだろうか。この映画では、中心となる被写体である前田の「個」の存在を立て、染谷らクルーはあくまでクルーたち「全体」として存在している。その佇まいや言動は控えめで、限りなくリアリズムに寄せたものと見える。『なつぞら』とは真逆のアプローチで役に接近しようとしていることがうかがえるのだ。だがこれもまた、アプローチこそ違えど、“場”をつくる染谷のうまさなのだろう。もちろんそこには、「周囲を思いやる」ことで生まれる一体感があるはずである。


 『なつぞら』においては、まだ何をしでかすか未知数の染谷将太。なつたちの成長とともに、さらに進化していく神地の存在に注目である。


(折田侑駿)