F1第11戦ドイツGPのホッケンハイムで11年ぶりの表彰台に立ったトロロッソ・ホンダがシーズン前半戦最後の2連戦で示したのは、トロロッソはもうこれまでのトロロッソではないということだ。
「今週は金曜が驚異的な暑さになるから、タイヤを保たせるためにはメカニカル面のセットアップを変えて、それにマシンを合わせ込まなければならない。それと同時に、土日には雨の予報もあるからその準備も必要だ。空力アップグレードパーツの評価もしなければならない。金曜フリー走行はとてつもなく忙しくなるよ」
ドイツGPの週末を前に、チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルスはそう言って忙しそうにしていた。
その準備作業が功を奏し、決勝では抜群の速さを見せた。
そしてチームとしてもアグレッシブな戦略で2周目にインターミディエイトタイヤに交換してまずアレクサンダー・アルボンを上位に押し上げ、レース中盤のセーフティカー導入中にダニール・クビアトをドライタイヤに交換することで2番手に押し上げた。
ドライバーとのコミュニケーションによる戦略判断がピタリとハマった。これは昨年までのトロロッソには見られなかった大きな成長だ。
「チームは常に進歩しているし、正しい時に正しい決断を下すことができた。それは今日のようなレース展開の中では決して簡単なことではないが、チームとドライバーのフィードバックが素晴らしかった。天気予報も全く正確ではなかったし、常に小雨が降り続いているような状況だった。その小雨が強くなれば路面上の水量が多くなってドライタイヤで走るのは難しくなる。しかし我々は『このギャンブルに賭けてみよう』と決断しそれに勝ったんだ」(フランツ・トスト代表)
さらにホンダもこれをアシストすべくパワーユニット(PU/エンジン)をアグレッシブに使い、マイレージ制限の許す範囲内でギリギリまでパワーを引き出してクビアトの表彰台獲得を援護した。これもまた昨年までのトロロッソ・ホンダにはなかったことだ。
しかし、ドイツGP予選では苦戦を強いられQ3進出どころか14番手・17番手と大きく低迷してしまった。
「予選の1周アタックでは、1周を通してタイヤを正しいウインドウにキープして(ピークのグリップを)1周保たせるのに苦労しているんだ。僕らが苦しむのは暑いコンディションでソフトタイヤで走るような状況だ。涼しいコンディションではかなり楽になるし、ドイツGPでも周りのライバルと比べてレースペースのコンペティティブさは少し驚きだったけどね」(アルボン)
暑いコンディションで柔らかいタイヤを使うとなると、タイヤ温度をコントロールするのにも苦労する上に、セットアップ面でもスイートストポットの狭さが災いしてマシンバランスに苦しむ。
それが今年のトロロッソSTR14の特徴だ。ホッケンハイムではウエットコンディションに救われたが、マシン特性は昨年までのトロロッソとは大きく異なる。良くも悪くも、これも今年のトロロッソの変化だ。
表彰台に沸いたドイツGP後、連戦となった第12戦ハンガリーGP。昨年はピエール・ガスリーが好走を見せて中団グループトップの6位を獲得した。しかし今季のトロロッソSTR14ではそのような快走が難しいだろうということは最初から分かっていた。そして実際にその通りになってしまった。
「金曜も予選もマシンバランスが前後バラバラなフィーリングになってしまって、セッティングをSTR14の狭いスイートスポットに上手く入れることができなかった」
アルボンはそう語り、クビアトも「エンジニアとの間で誤解がありステアリング上のボタン操作が違っていた」というものの「いずれにしてもこれが今のこのマシンの限界だった」と12、13番手に終わった予選を振り返った。
ハンガリーGPの金曜日にはアルボンが最終コーナーで大きなクラッシュを喫してしまったが、その影響はほとんどなかったという。
「見た目は大きなクラッシュに見えたけど、実際にはそれほどではなかったんだ。真横からだったし、マシンのダメージもほとんどなかった。最新の空力パーツも継続して使うことができたし、土曜以降も基本的にダニー(クビアト)と同じスペックだったからね」(アルボン)
そして苦境の中でも決勝で粘り強く走り、アルボンは10位入賞を果たして1ポイントを持ち帰った。これも昨年までのトロロッソにはなかったことだ。それだけチームとしての総合力が高くなってきているということに他ならない。
ホンダは2017年夏にマクラーレンと袂を分かち撤退の危機に直面していた自分たちを救ってくれたトロロッソに今でも感謝し、トロロッソの成長に貢献したいと思っている。そしてトロロッソもまた、二人三脚でチームを成長させようと努力してくれるホンダに感謝し、実際に大きな成長を見せてきた。
現在の状況をトロロッソのフランツ・トスト代表は、以下のように語っている。
「ドイツGPの表彰台はチームが大きく前進していることを証明するものだが、その中心的な役割を果たしたのはホンダパワーだ。そのパワーが我々に大きな前進をもたらしてくれたんだ。この2年間ホンダとともに進めて来たプログラムは非常に順調に進んでいる」
「フランスとオーストリアではコンペティティブではなかったけど、今のところその2戦以外は非常に良いシーズンだと言えるし、シーズン後半戦に向けてはポジティブな状況だと言える。後半戦にはホンダのアップグレードも入るし、我々自身も新しい空力パーツを投入していくしね」
「そしてふたりの素晴らしいドライバーもいる。だから後半戦に向けて期待しているんだ。昨年よりも上、チャンピオンシップで5位か6位にはなりたいと狙っている」
コンストラクターズランキング5位でシーズン折り返し地点を回ったトロロッソ・ホンダは、シーズン後半戦にはさらに“これまでのトロロッソとは違う”姿を我々に見せてくれるはずだ。