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『ワイスピ』シリーズに“新たな広い視野”!? 『スーパーコンボ』に引き継がれた最も大きな価値観

2019年08月11日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(c)UNIVERSAL PICTURES

 次々に続編が製作され、大作化を果たしてきた『ワイルド・スピード』シリーズ。大ヒットを記録するたびに、主役を張れるようなスター俳優が脇役として次々に同時出演することにもなった。その代表が、『ワイルド・スピード MEGA MAX』から登場している、ドウェイン・ジョンソン演じる正義のマッチョ捜査官ルーク・ホブス。そして『ワイルド・スピード EURO MISSION』から登場する、ジェイソン・ステイサム演じる元スパイの殺し屋デッカード・ショウである。その二人が主人公となった本作『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(原題は『Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw』)は、『ワイルド・スピード』のスピンオフ作品という位置付けだ。


参考:スピンオフでも安定の大ヒット 『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の真価


 スピンオフといえば、こじんまりとした作品を想像してしまうが、ヴィン・ディーゼル演じる、仲間を取りまとめる“ドム”が登場しないとはいえ、それでも本作がドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサムという、本線で脇役を演じたスター俳優がダブル主演する、豪華なアクション大作になっているという事実は、『ワイルド・スピード』シリーズが、彼らスキンヘッド組を中心に、いかに異次元的な布陣でキャスティングされていたかを、ふたたび思い出させるのだ。


 『ハートブルー』(1991年)のカーアクション版とでもいえる、捜査官がロサンゼルスの犯罪組織に潜入するという物語を、青春映画のようなテイストで映し出すような内容で開始された『ワイルド・スピード』シリーズは、スケールがアップすることで、世界を股にかける犯罪版『ミッション・インポッシブル』シリーズのような内容へとシフト。そこで中心となるカーアクションや肉弾バトルも、刺激を求めることで、より荒唐無稽なものへとエスカレートしてきた。それを受け、大作化を果たしてから登場した二人、ホブス&ショウが主人公となる本作は、必然的にシリーズの荒唐無稽さをさらに煮詰めたような内容になっている。


 正義の捜査官と殺し屋、またはパワー系マッチョとスピード系マッチョという特徴を持つホブス&ショウは、反目し合いながらも、世界を支配しようとする悪の組織の企みを阻止するため、力を合わせることとなる。ヴァネッサ・カービー(『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』)が演じる、世界を救う鍵を握る謎の美女とも協力しながら、悪の組織に対抗しようとするホブス&ショウの前に立ちはだかるのは、イドリス・エルバが演じる、人間の限界を超えた能力を持つ男だ。


 そんなあらすじを聞いただけで、良く言えば“豪快”、悪く言えば“大ざっぱ”な内容であることが分かってしまう本作の見どころは、仲の悪い二人が協力しながら、“自分の方が上”だとばかりに、あらゆる局面で張り合い続ける姿がコメディ調に演出される箇所だろう。それは、二人が目覚めてから卵を調理して朝食を食べ、車で家を出る姿をスプリット画面によって映し出す登場時のシーンから続いている。


 そんなほほえましい雰囲気のなか、ビルから生身で飛び降りて敵に体当たりしたり、ヘリコプターとトラックが力比べをするなど、現実にはあり得ないシチュエーションを笑いながら観るというのが、本作の楽しみ方である。それ以上でも以下でもない内容は、だからこそ分かりやすい魅力にあふれ、むしろいままでの設定を最低限覚えておかなければ全てを理解できない『ワイルド・スピード』の本線よりも、観客を本当に何も考えさせずにエンジョイさせるものとなっている。本作は、もはや『ワイルド・スピード』シリーズを何も観ていなくとも、一つも支障なく楽しむことができるのである。


 そして本作は、『ワイルド・スピード』シリーズの最も大きな価値観を引き継ぐことを忘れていない。それは、“地元サイコー、ファミリー最強”という概念である。本線に必ずあったのは、ドムとロサンゼルスの地元の仲間たちを中心に構成された“ファミリー”の絆を描くシーンだ。カスタムカーに乗って集まった仲間たちが、バーベキューを囲み、ライムを絞ったコロナビールを飲みながらバカ話で笑い合う……。「地元に生まれて良かった、仲間たちと出会えて良かった」、このようにヤンキー体質を肯定するようなシーンがあることで、『ワイルド・スピード』シリーズは、同じ価値観を持つ人々から支持されることになったといえよう。


 本作では、犯罪を生業(なりわい)としてきたイギリスのショウの家族、そしてサモアに居を構えるホブスの大家族が登場し、ロサンゼルス以外の地元とファミリーを描いている。大きな特徴は、このドウェイン・ジョンソンの本当のルーツであるサモアが、大きくクローズアップされている点であろう。


 いままでシリーズで描かれてきた“ファミリー”は、アフリカ系やカリブ系、アジア系など様々な人種が含まれていたとはいえ、その中心はロサンゼルスに象徴されるアメリカの都市部であった。このように、輪の内側の良さを賛美する価値観というのは、一歩間違うと、外側の人々を排斥する思想とつながる危険もある。だが本作では、“ファミリー”がいろんな国や地域に存在し、それぞれの場所が“サイコー”であるということが示されている。


 ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムが、本作の製作陣に名を連ねていることから分かるのは、本作の利益がより主演二人に配分されるようにするという契約を出演の条件にしているということである。だが同時に、それぞれ外側にルーツを持つ二人の世界観が、より本作に投影されることにもなったといえよう。そして『ワイルド・スピード』シリーズに、新たな広い視野を与えているように感じられるのである。そのような内容を大ヒットシリーズとして、世界に発信するということは、想像以上に重要な取り組みなのかもしれない。(小野寺系)