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怪しさMAX! 『あなたの番です』後半戦からの刺客・田中哲司、名バイプレイヤーぶりを堪能

2019年08月11日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

田中哲司『あなたの番です-反撃編-』(c)日本テレビ

 今夏大注目のドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)にて、後半戦から参戦してきた田中哲司。敵か味方か分からぬ存在として、激化するドラマの盛り上がりに一役買っている存在だ。


 田中が演じる南雅和が登場してきたのは、この第二期から。立て続けに起こる陰惨な殺人事件によって「家賃が下がっていたから」という理由で、マンション・キウンクエ蔵前に越してきた謎の男だ。そんなある種の不純な動機で現れた部外者であるうえに、異常なまでに図々しく、無神経な態度がいちいち鼻につく存在である。第15話で、彼は自らを「事故物件住んでみたい芸人!」だと名乗っており、それを証拠付ける動画まで披露していたが、なんとも信用ならない。傷つき、怯える人々を前に、「ネタにして笑い飛ばしてやるから協力しろ」なんて傲慢なことまでも軽々しく口にする男なのだ。


【写真】『あなたの番です』の救世主・横浜流星


 わざわざ訳ありマンションに入居……こんな怪しさMAXの男だが、そう感じさせるのは、このキャラクターの設定だけではもちろんない。演じる田中は野太い声を大小高低と巧みに操り、180センチ超えの大きな身体で駆け回っては、他を圧する。遅れての参加組でありながら、問題だらけの居住者たちに負けぬレベルの問題ぶりで溶け込んでいるのだ。個性的なキャラクターが何人も名を連ね、誰もが“怪演”と呼べる好演を披露してきた中、田中もまた十二分に張り合う力を見せているのである。


 そんな田中が押しも押されぬ名バイプレイヤーであることは周知の事実だろう。蜷川幸雄、串田和美、長塚圭史、野田秀樹ら演出家に愛され、ウィリアム・シェイクスピアやサミュエル・ベケットなどが生み出した古典劇、それから現代劇まで、幅広いジャンルの作品で舞台に立ち続けてきた。テレビドラマでの活躍も、ゲスト出演したものまで含め、かなりのタイトル数にのぼる。映画に関しては、コメディにラブストーリー、ヒューマンドラマに社会派ドラマ、バイオレンスと、まさになんでもござれ。北野武などの巨匠から、園子温や三浦大輔といった鬼才、そして若手監督たちからのラブコールが鳴り止まないことからも、彼がいかに信頼度の高い俳優かが分かるだろう。


 とくに今年は、『デイアンドナイト』と『新聞記者』という、毛色の違う出演映画2作が公開。いずれも監督は、新鋭・藤井道人である。前者では「人間の善と悪」というテーマの作品世界において、その理性的判断を揺さぶる根源ともいえる役どころを務め、これは後者のテーマにも通底しており、やはり田中はその中心的人物を演じている。どちらでも演じ上げているのは、厳格で重々しいトーンの振る舞いを見せるキャラクターだが、今作『あなたの番です』に通じるような、“怪しい男”や“危ない男”も数多く演じてきた。


 昨年公開された『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』での、奇天烈なファッションに身を包んだ事務所社長役(これはやり過ぎだが)や、朝ドラ『まんぷく』(2018-2019/NHK総合)でのインチキ社長の姿も記憶に新しい。後者では激動の時代をチーム一丸となって切り拓いていく人々の前に立ちはだかり、劇中で最も温厚な人物を演じた大谷亮平を激怒させてしまうに相応しい説得力で存在していた。田中が性格派俳優として、名バイプレイヤー的立ち位置で重宝されているゆえんが、このあたりに見て取れるだろう。


 『あなたの番です』でこれからどういう動きに出るのか気になるキャラクターではあるものの、そんな存在の者たちが次から次に姿を消してしまっているのが本作だ。田中哲司の芝居を楽しむためにも、南雅和の“生き残り”を願うばかりである。


(折田侑駿)