2019年08月11日 09:41 弁護士ドットコム
35人が亡くなるなど、大きな被害が出た「京都アニメーション」の放火事件では、京都労働局が労災の認定に前向きだと伝えられています。認定されれば、遺族や負傷者が労災の補償を受けられます。
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仕事中、なんの落ち度もないのに被害にあったのだから、労災は当然だと思う人もいるでしょう。しかし、実際は勤務中だったからといって、必ずしも業務災害と認められ、労災保険の給付が受けられるわけではありません。
労働問題にくわしい波多野進弁護士は、京アニ事件で労災が適用されそうなことに、ホッとしたひとりです。
「第三者の『犯罪行為がたまたま会社で起こっただけ』として、労災が認められないことがあるからです」
実際、厚生労働省の労災パンフレットにも、事業場施設内での仕事中であっても業務災害として認められない例の一つとして、「労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合」が挙げられています。
「今回は被疑者が京アニへの恨みを語っていることなどから、労災の認定が前向きに検討されているのではないでしょうか。使用者(京アニ)と被疑者とのトラブルに従業員の方々が業務遂行中に巻き込まれたと言え、業務災害と認められるべきと考えられます」
「一方で、行政の裁量で救済方向に動くこともあるのですが、厳密に言うと『無差別』のときは適用が難しいと思います」
労災が認められるには、業務とケガなどの間に一定の因果関係が必要です。たとえば、労働者が勤務中に脚立から落ちてケガしたときを考えます。通常なら労災が認められるケースと言えるでしょう。
しかし、脚立から落ちた理由が「同僚からわざと押された」などだと話が変わってくるといいます。悪ふざけとか、個人的に恨みがあったとかであれば、業務とは関係のない行為と判断され、労災が認められないこともあるそうです。
一方、同じ同僚から押された場合でも、「職場での業務の進め方など仕事をめぐる口論からエスカレートして手が出てしまった」というように、仕事とのかかわりが認められれば、労災として扱われる可能性が高まるといいます。
「実は『業務に起因するかどうか』の線引きはかなり難しいのです。京アニについては、報道や世論の後押しも大きいと思います。着目されていない静かな事件では、そう簡単ではないことが多いと感じています」
京アニ事件はもちろん、業務中に理不尽な事件に巻き込まれた労働者ができる限り多くの補償を受けられるよう願いたいところです。
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com