トップへ

出産は「会社員の特権」ですか? フリーランス産休で「300万円」の収支格差

2019年08月11日 09:41  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

内閣府が7月24日に発表した推計によると、日本国内のフリーランスは300万人を超え、その約3分の1が女性とされる。だが女性フリーランスの妊娠・出産に関するセーフティネットは、まだ十分とは言えない。


【関連記事:【前編】フリーランス、育休給付なく、健康保険も免除されず…出産直後に仕事再開】



プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の試算では、出産に伴う会社員とフリーランスの収支には、300万円近くの格差が生じるケースもあるという。同協会の平田麻莉代表理事は「ライフリスクに関するセーフティネットは、働き方に関わらず平等に整備してほしい」と訴える。(ジャーナリスト・有馬知子)



●収入は会社員が、支出はフリーが多い

同協会の試算から、まずは出産にまつわる収入を見てみよう。雇用形態に関わらずもらえるのは、出産育児一時金(42万円)だけだ。



会社員の場合、加入している健康保険組合が、出産手当金(週5日8時間勤務、月収30万円の場合、約65万円)を給付する義務を負っている。子どもが1歳になるまで育児休業を取得すると、育児休業給付金として、育休開始後半年は給料の約3分の2、それ以降は2分の1(計約180万円)が雇用保険から支給される。



フリーランスの多くが加入する国民健康保険の場合、出産手当金は任意給付で、保険者である自治体に、支払う余力がないのが現状だ。しかし平田氏は「会社員と同等、あるいはそれ以上の保険料を納めているフリーでも、手当金はもらえない。本来、弱い立場の人をこそ救うべきセーフティネットが、会社員の特権になってしまっている」と指摘する。



一方、支出は圧倒的にフリーが多い。



会社員の場合、産休・育休中は会社の届け出によって、健康保険料と厚生年金保険料の支払いが免除となる。一方、国民健康保険に、出産に伴う納付免除はない。



平田氏は第2子出産の際、予定日前日まで仕事を入れていた。「主治医からは『フリーの妊婦が一番危険』と言われた。医師の間にはこれほどまでに、リスクが高いという認識が浸透している」と話す。



同協会の調査によると、フリーで働く女性の約45%が産後1カ月以内に復帰している。休んだ分、収入が途切れることが早期復帰の最大の理由ではあるが、支援金が手薄で、保険料の負担が続くことも一因とみられる。



●保育園の奪い合いは不毛 バウチャー制度も検討を

フリーランスは、例え外に出て働いていても原則として「居宅内労働」とみなされ、自治体によっては、保育園の入園審査の点数が大幅に下がってしまう。



同協会の働きかけを受け、厚生労働省は2017年末、入園について、会社員とフリーの取扱いを平等にするよう、全国の自治体へ通知した。ただ平田氏は「通知に拘束力はなく、自治体によっては今も正社員を優遇しているところもある」と話す。



平田氏自身、第1子の保活では窓口で「(入園申請を)出すだけ無駄だから、認可外保育園を探した方がいい」と門前払いされた。2人目も待機児童となって、抱っこ紐で仕事に同行する「カンガルーワーク」を1年間続けた。



ただ平田氏は「フリーと従業員で、保育園の奪い合いをするのは不毛だ」と話す。



現在の保育園は、平日フルタイムで預けることを前提に作られているが、近年はフリーランスや看護師のような、夜間や週2日、あるいは午前だけ預けたいなど、保育ニーズが多様化している。



このため平田氏は「子育て家庭にバウチャー(引換券)を配布する仕組みも作り、安全性を確保した上で、ベビーシッターや託児機能付きコワーキングスペースなども、公的な保育システムに組み込むべきではないか」と提案する。



●多様化するフリーランス 「自己責任」では片づけられない

かつての「フリーランス」は、人脈や資金を蓄積したベテランが、満を持して独立する形が多かった。このため「フリーの中にも、リスクに自力で対応できないなら独立すべきでないなど、自己責任論は強い」(平田氏)。



だが現在は、育児・介護の両立が難しくなった人や、子育ての負担が重いシングルマザーが、自己裁量の広いフリーの働き方を選択するケースも増えている。平田氏は「妊娠出産というライフリスクに当たって、休業も手当も保険料免除もないという『ないない尽くし』を強いるのは酷ではないか」と疑問を呈する。



同協会の「フリーランス白書2019」によると、フリーランスの普及に何が必要かとの質問で、最も多かった回答は「出産・育児・介護などのセーフティネット」だった。



●出産、育児、介護が「柔軟な働き方のボトルネックに」

今年4月から、フリーについても出産予定日の前月から4カ月間、国民年金保険料の支払いが免除されるなど、待遇改善の動きは少しずつ始まっている。厚生労働省も「雇用類似の働き方」として、フリーに関する政策課題や保護の在り方を議論している。



セーフティネットを整備する上で、最も大きな壁は財源だ。特に育児休業給付金は、雇用保険から支払われるため、雇用関係のないフリーランスはそもそも蚊帳の外だ。



ただ、出産手当金の財源となる健康保険について、平田氏は「所得額や納税状況を明示できる場合は、個人事業主であっても、(中小企業などの従業員や家族が加入する)協会けんぽへの加入を認めるといった選択肢もあるのでは」と話す。



安倍政権は「一億総活躍プラン」と銘打ち、柔軟な働き方を促すことでより多くの女性を労働市場へと引き出そうとしている。平田氏は訴える。



「出産や育児、介護といったライフリスクへの対応の弱さが、『柔軟な働き方』のボトルネックになっている可能性は高い。政権は一億総活躍の旗を振る以上、雇用関係の有無に関係なく、公平に恩恵を受けられるようにしてほしい」



(前編はこちら)