2019年08月11日 09:41 弁護士ドットコム
正社員なら妊娠・出産の際は、出産休暇に育児休業、出産手当金に育児休業給付と、手厚い支援制度が設けられている。産休・育休中は社会保険料の支払いも免除され、認可保育園に子どもを預けやすい自治体も多い。
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しかしフリーランスは、こうした恩恵をほとんど受けられない。フリーランスの女性たちの話からは、経済的な必要性から、産前・産後の体の不調を押してでも、仕事を続ける実態が浮かび上がった。(ジャーナリスト・有馬知子)
埼玉県内に住むフリー編集者の恵さん(仮名、32歳)は、近くに住む両親に育児を手伝ってもらいながら、6歳と2歳の子どもを育てるシングルマザーだ。「両親が育児に協力的な自分は、恵まれている」と話すが、実家は裕福ではなく、金銭的な援助は一切ない。
2人目の出産の時はすでに離婚しており「仕事が途切れる恐怖は強かった」と振り返る。
子どもの保育費や食費など、家計の出費は待ったなしだ。さらに国民健康保険は、出産に伴う保険料支払い免除の仕組みがない。一方、出産に伴う収入は、国保からの出産育児一時金42万円のみ。これは多くの場合、分娩費用で消えてしまう。
恵さんは、出産予定日の1週間前まで、仕事量をセーブせずに働いた。出産直後から、在宅でできるウェブの仕事を始め、1カ月で仕事を通常ペースに戻した。
本来なら、3、4時間おきに授乳しているはずの時期だ。「キャミソールが母乳でびしょびしょになっていることも多かった」。体がむくみやすい、疲れやすいなど産後の体調不良もあった。それでも、年収は前年と同水準をキープしたという。
「社会保険料の負担がとにかく大きい。前年の年収で金額が決まるので、下手に休んで収入が落ちると、保険料の支払いで収入がかなり目減りしてしまう。出産後も働くペースを緩められない」と、ため息をついた。
東京都内で11歳と8歳、2人の子どもを育てるフリーライターの美樹さん(仮名、43歳)は、第1子の出産直前に退職してフリーランスに転じた。産後でもあり収入は大幅減の見通しだったが、保険料は正社員時代の年収で算出されてしまう。結局、夫の扶養家族に入り、支払いを免れた。
扶養に入らなかった第2子の時は、重いつわりに苦しみながら仕事を続け「取材が終わると休める喫茶店などに駆け込む」日々だったという。
恵さんは、フリーランスの肩書がネックとなり、第1子の「保活」に失敗している。当時住んでいた新宿区の職員は「あなたの場合、東大に入るより子どもを保育園に入れる方が難しい」。
職員は、フリーの仕事ぶりもよく理解していない様子だったという。編集の仕事は、取材や打ち合わせで外出する機会も多いが「フリーランスはずっと在宅で仕事をしていると、思い込んでいるようだった」
一方、近くのメガバンクの社宅に住む、共働きママの子どもは軒並み、保育園に入れた。恵さんは「銀行員の夫がいて、家賃も安い社宅に住んでいるのに彼らは受かり、こっちは落ちるんだ…」と、理不尽な思いに駆られたという。
恵さんはその後、実家近くに引っ越し、「綱渡り」ながらも母親に育児を頼ることができた。だが「フリー仲間には、月20万円のベビーシッター代を負担しながら仕事に復帰し、やっと保育園に入れた人もいる」と話す。
一方、美樹さんはクライアントに「4月から仕事を依頼する予定で、子どもの預け先が必要」と一筆書いてもらい、役所へ提出。あまり人気のない保育園を選ぶなどして、無事保育園に入れた。
ただ美樹さんの住む地域はその後、待機児童が急増。正社員ですら認可保育園に入れず、認可外保育園に一時預けて入園選考の『点数』を上げ、認可への転園を目指すことも日常化した。しかし認可外の場合、1カ月の保育料が10万円にのぼる園もあり、美樹さんは「フリーの収入で支払うのはためらわれる」と話す。
美樹さんは第2子の出産後、クライアントの「忖度」で仕事を失ったことがある。
復帰2カ月後、ある編集者から仕事が持ち込まれ、美樹さんは快諾した。しかしその後の雑談で、最近出産したことを話すと、編集者の態度は一変。「2人目でリズムもつかめているし、仕事はできます」と美樹さんが言っても「保育園の入園はまだ先なんでしょ」。
「結局、依頼はキャンセル。小さい子を抱えて大変そうだ、という思いやりもあるのでしょうが、仕事が途切れる方が不安でした」
保育園からの緊急連絡で、やむなく現場を抜けて子どもを迎えに行ったところ、取引先が気を悪くして、発注が来なくなったこともあるという。「たとえ実害がなくとも、仕事に育児を持ち込むことに対して、厳しい目で見るクライアントもいる」
一方、恵さんは「最近、社会保険料を滞納してしまった」と明かす。役所の窓口では「十分収入はあるのに、なぜ滞納するのか」と聞かれた。
この時恵さんは、出張が立て込んで、旅費や宿泊費など数十万円を立て替えていた。このため家計がうまく回らなくなってしまったという。「子どもたちに何かあったらと思うと、貯金を取り崩すのも怖かった。多額の費用を立て替えさせる業界の慣習も、フリーへの理解を持ち合わせていないと感じます」
恵さんは、最後にこう話した。
「50代以上のフリーの先輩たちは、未婚や子なしでバリバリ働いている人が多い。しかし若い世代には、子育て中の人や、私のようなシングルマザーも増えている。こうした人が安心して子どもを産んで、育てられる仕組みを作ってほしい」
(後編へ続く)