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『凪のお暇』愛は毒にも薬にもなりうる ゴン(中村倫也)がメンヘラ製造機たる所以が明らかに

2019年08月10日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『凪のお暇』(c)TBS

 「あいつとうまくやっていくには、用法用量守らなきゃダメ。依存したら終わりだよ?」


参考:『凪のお暇』高橋一生は究極の泣き俳優!? 夏ドラマに急増する「めそめそ男子」の中で一番の存在感


 金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)第4話で改めて考えさせられたのは、“どの恋愛も、薬にも毒にもなる“ということだ。


 凪(黒木華)は、エリート営業マンの元カレ・慎二(高橋一生)に“スペックだけを見ていたのだ“と伝え、別れを告げる。そして、ありのままの自分を受け入れてくれる謎の隣人こと、イベントオーガナイザーのゴン(中村倫也)の部屋へ。


 ついこの前まで、ゴンに対して「この恋の歯車、回っちゃダメ」と言い聞かせていた凪。自分には手におえない相手だという予感は確かにあったのだ。「あいつ人との距離感おかしいから」と、ゴンの周囲にいる仲間からの警告もあった。だが、それでも一歩踏み出してみたくなったのだ。


 ゴンと一線を越えることで、どこか“今までの自分“という柵をも飛び越えられるような気がしたのだろう。空気を読みすぎて意思を貫けない自分が変わるのではないか、穏やかな気持ちで、おいしい空気を吸えるのでは、という期待が凪を駆り立てた。


 実際に、ゴンと肌を合わせる時間は甘く、心地いい。ほしい言葉をくれて、身体にも心にも優しく触れてくれる。そんな幸せいっぱいの中でも、拭いきれない違和感が。洗面台には多くの女性たちが出入りした証ともいえる、スキンケアグッズがずらりと並ぶ。


 快楽の極みまで連れて行ってくれたかと思えば、事が終わるとすぐに背を向けてしまうゴン。その視線の先にあるのは、凪の目ではなく、スマホ画面。2人だけの時間を過ごせているようで、常に外部とつながっているゴンに戸惑う凪。


 「私たちの関係って?」「付き合ってるってことでいいんですよね?」「彼氏彼女ってことで?」……ゴンに聞きたいのに聞けない言葉たち。だが、この野暮ったい質問をすれば、この居心地のいい空間が、とろけるような笑顔が目の前から消えてしまうかもしれないと思うと怖くて動けないのだ。


 「好き」だと言ってくれた。合鍵もくれた。会えば“ギューッ“としてくれる……言葉で聞けない不安を、事実で埋めようとしていく凪。それは結果的に、見たいゴンの姿しか、聞きたい言葉しか受け入れなくなるということだ。


 空気を読み合う凪と慎二は、似た者同士だった。「付き合っちゃう?」の言葉には、「あなたが好き」が入っているのだと通じる仲。感覚が似ていればこそ、言葉足らずを補い合える。だが、ゴンの「好き」は、凪や慎二のそれとは異なる。異なることはわかるけれど、何がどこまで違うのかがわからない。その差異を知るには、話し合うしかない。しかし、それができないから、視野はどんどん狭くなり、気づけば闇に堕ちていくのだ。


 最初は、心の傷を癒やしてくれる鎮痛剤だった恋。だが、その快感に依存すれば、あっという間に感覚が麻痺していく。もっと、もっと……とハマっていく。せっかく仲良くなった小学生のうらら(白鳥玉季)からも「おかしくなった」と言われ、龍子(市川実日子)のまっすぐな意見にも耳を塞いでしまう。見たくない、聞きたくない、誰にも非難されたくない……と、殻に閉じこもっていく凪。


 ゴンが「メンヘラ製造機」と呼ばれる所以は、そこにある。一見、同時に複数のパートナーを愛せるポリアモリーにも思えるが、ゴンの場合は関係を持った相手に対して「パートナー」という感覚が薄い。一方で、合鍵を渡された女性たちは、自分はパートナーになったのだと思うから、すれ違いが起こる。それがモノガミー(1人だけと関係を持つ考え方)なら、なおのことだ。


 ゴンとの恋愛が、楽しくて、心地いいものにし続けたいのなら、そのゴンの特徴を知り、受け入れなければならない。嫉妬という副作用に支配されて、自分が自分でいられなくなるのは、本末転倒だ。そして、ゴン自身も自分の愛し方には「相互理解」がないと成り立たないことに気づかない限り、目の前で好きな人がどんどん壊れていくのを繰り返すだけになってしまう。


 ゴンを想うあまり、壊れかけている凪を見て号泣する慎二。「もしかして泣いてるの?」と驚く凪だが、視聴者は毎回慎二が泣いているのを知っている。自分が傷ついたときには人知れず泣く男が、凪が傷ついていると知ってその場で泣いたのは、空気を読むよりも凪への思いが大事だと気づける予兆だろうか。だが、人は簡単には変われない。慎二が凪にかけた呪いの言葉は、そのまま慎二自身にも降りかかる。


 そして、予告編では、誰に対しても同じように「好き」と思っていたゴンの中で、凪への「好き」が特別なものに感じられるようなシーンも。果たして、ゴンも相手を壊さずに愛する方法を見つけることができるのか。自分の恋が自分を幸せにする薬であるために、自分の愛がパートナーを癒やし続ける薬であるために。凪、慎二、ゴンそれぞれの毒に、もう少しだけ向き合ってみたい。


(文=佐藤結衣)