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フロントロウから3位に終わったニッサンGT-R陣営。ニューエンジン”2号機”は逆転タイトルへの切り札となるか

2019年08月10日 06:21  AUTOSPORT web

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スーパーGT第5戦富士500マイル決勝、2位のRAYBRIG NSX-GTを追うMOTUL AUTECH GT-Rだったが、次第に離されていった
スーパーGT第5戦富士500マイルではレクサス、ホンダとも年間2基と制限されているエンジンの2基目を今回投入した。しかし、ニッサンは開幕戦から使用している1基目を継続使用した。2基目の開発が遅れた結果なのだろうか?

「そんなことはないですよ。マイレージが残っている状態であれば、思い切り壊すくらいの勢いで使うことができるので、それはどちらも選択肢があるんです」と説明するのはニッサンの松村基宏総監督。

「もし(1基で)4戦を前提として設計しているのであれば、そういう選択はできないですが、我々は5戦分の距離を前提としています。ですから早く切り替えて、後半5戦を1基で戦う考え方もあれば、前半5戦で使うこともできます」

「思い切り使う」とはターボのブースト圧を上げて、熱効率の高い領域でエンジンに仕事をさせること。それは予選一発だけの話ではないと松村総監督は語る。「決勝に対しても、どこまで攻めることができるかは当然、確認しています。同じスペックのエンジンで、どれぐらい攻めるとどれくらいの負荷があるのか、耐久試験をした上で分解して確認してから、どこまで攻めるかを決めています。これは通常のルーティンワークです」

 予選ではフロントロウを独占したものの、「ストレートを見ていると、立ち上がりは彼ら(レクサス)の方が速くて、後半で同じくらいのスピードになっているだけ」と、その攻めて使った1基目のパワーがライバルを上回ったと松村総監督はみていない。2基目ではそれを上回ることを当然目指しているはずだ。「それはノーコメントですけど(笑)、想像してください。頑張るつもりでいます。まだ(チャンピオンを)諦めていない」

 ライバル2社はいずれもプレチャンバー(副燃焼室)を投入している。燃焼室内のスパークプラグを覆うプレチャンバーはピークパワー向上にメリットがある反面、過渡領域で安定した燃焼を維持するためにはデメリットもあるという。特殊燃料のF1と比較すると、市販ハイオクを使用しなければいけないGT500では、マイナス面が大きく出る傾向にあるようだ。

「研究はほぼ終わってはいます。いい面はあると思うのでひとつの選択肢ではあります。トータルで燃焼のコンセプトをどうするのかという話で、それにクラス1(DTMとの共通規定)ではプレチャンバーが禁止されていますからね。両方に対応するエンジンにするのか考えなければいけません。我々の"2号機"がどうか、そこは明言しません」

 松村総監督は"2号機"へのプレチャンバー投入の有無について明言を避けた。しかし、いずれによせ"1号機"を上回る性能を"2号機"が有しているのは間違いないであろう。しかも残りは3戦であり、それぞれのラウンドのレース距離は、300km、250kmと短い。エンジン運転全体マイレージが少ないということは、それだけ攻めたエンジン運用方法が採用できる。

 ここから後半戦選手権ポイントの追うニッサン対逃げるレクサスという図式のなかで、ニッサンの手中に新スペックエンジンというひとつのカードがあることは明らかになった。各車両のパフォーマンスとともに、陣営としてどう動くのか、どのようにレースをするのかも重要となってくるだろう。さらにSUGO、オートポリス、もてぎといずれもNSX-GTが得意とするコースである。チャンピオンシップを戦う当事者にとっては難しい展開が予想される。

 さらには最大ウェイトハンデで臨む次戦オートポリスは標高が高い。各陣営ともターボチャージャーの能力限界まで使っている現状からすると、ウェイトハンデ50kg超で段階的に絞られる燃料リストリクターのステージが上がることの不利が多少減る状況も考えられる(同じく標高が高い富士の第5戦における6号車WAKO'S 4CR LC500の活躍もそれを証明)。GT500の戦いを巡る要素は複雑さを増している。