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南條愛乃のライブになぜ心動かされる? 『LIVE A LIFE』から伝わる唯一無二のアットホーム感

2019年08月09日 10:51  リアルサウンド

リアルサウンド

南條愛乃

 歌を歌うのは、「好きだけどずっと苦手」だったという南條愛乃。声優という職業に憧れ始めた中学生時代。高校に入ると、地元・静岡の駅前で見つけた路上ライブに足を運ぶようになり、そこで出会ったひとりの女性ストリートミュージシャンが歌を好きになるきっかけをくれた。そして、南條愛乃はいま、アーティストとしてステージに立っている。


参考:南條愛乃が語る、ライブを通して築いた“大切な場所”「今までやってきたことに間違いはなかった」


 もともと引っ込み思案だったという南條だが、以前は人前で歌声を披露することになるなど、想像していなかったかもしれない。しかし、2012年12月に念願のソロアーティストデビューを果たして以降、今なお歌の世界で活躍のフィールドを広げ続けているのは、先に掲載した記事の通りである(参考:南條愛乃、歌詞の根底にある“つながり”の大切さ 作詞曲から音楽活動への思いを読み解く)。


 南條にとって、前述したストリートミュージシャンとの出会いが、人生の大きなターニングポイントになったのは想像に難くない。そんな彼女も今や、かつて路上ライブで出会ったその人と同じく、多くの人々に一歩前進する勇気を与えるような立場となったわけだが、実際にソロデビュー後の南條は、ライブという空間をどのように考えていたのだろうか。


 2016年3月発売の『My Girl vol.8 “VOICE ACTRESS EDITION”』(KADOKAWA/エンターブレイン)では、当初はライブパフォーマンスが苦手だったと前置きしながらも、「ライブは“空間と実感を共有できる場”と気づいた」「例えば同じ曲を歌っていても、違う会場で歌ったら違うものになる。それが楽しいというか、自分にとって大事な活力の素になる」といった、ポジティブな方向への変化を確認できた。


 この心境の変化は、活動期間を重ねるにつれてさらに強い意識として表れており、それはおそらく、7月24日発売の新アルバム『LIVE A LIFE』でも感じられることだろう。南條は2018年7月に2枚のベストアルバムを発売し、同年9月には全国4都市にて、同アルバムタイトルを掲げた『南條愛乃 Live Tour 2018 -THE MEMORIES APARTMENT-』を開催。『LIVE A LIFE』は自身初のライブ音源収録盤として制作され、初回限定盤には彼女の地元・静岡でのステージ全編の模様も楽しむことができる。


 同作の制作経緯については、南條が自身のラジオ番組『こんにちは!なんじょーさん!!』内にて、「メモパ(=前述した全国ツアー)の映像作品として楽しんでほしいアルバム」といった発言を、幾度となく重ねていたのが印象深い。記念すべき自身初のベストアルバムを携えた、ひとつの集大成的な全国ツアーだったこともあり、その内容にもとりわけ思い入れが強いのだろう。前掲コラムでは、南條のアーティストとしての歩みやスタンスを振り返ったわけだが、彼女を応援する者であれば、この集大成的なタイミングで『LIVE A LIFE』(=人生を生きる)というタイトルが選ばれたことにも自然と納得がいくはずだ。


 実際に初回限定盤収録のステージ全編映像では、南條のライブが“空間と実感を共有できる場”であることを大いに感じられることだろう。これは、今年7月に開催された『南條愛乃 Birthday Acoustic Live 2019』でも感じたことだが、彼女のライブはとにかく客席との距離感が程よい。南條が少しでも笑いを誘えば、客席からは大喜利のようなレスポンスが次々と飛び交ってくるのだが、そこには彼女の話を遮らないバランス感もあり、客席を共にしていて自然と愉快な気持ちにさせられる。


 この関係性はこれまでのライブはもちろん、今年5月より全国47都道府県にて開催中のアコースティックツアーを通じて育まれてきたものなのだろう。同ツアーは、活動史上最もステージとの物理的距離が近いといわれているだけに、今後どのような変化をもたらすのかも楽しみにさせられる。


 また特典映像内では、南條が音楽を通じて客席との“近況報告”を交わす光景も目撃できる。これは、直接的な言葉のやりとりはもちろん、お互いがその表情から様々な感情を想起することを指してのものでもある。南條の歌う楽曲は聴き手の生活にそっと寄り添うものであり、彼らが日頃から親しむ楽曲がリアルタイムで披露されるステージには、自然と笑顔を引き出されるに違いない。


 このほかにも、毎日の生活のなかで彼女の楽曲に勇気付けられた時の感情や、悩んだ時に励まされたシーンを思い返すこともあるだろう。そんな日常生活で芽生えた思いをお互いに分かち合う様子は、まさしく“近況報告”と呼ぶに相応しい。南條が言うところの“空間と実感を共有できる場”とは、このような会場全体の空気感を指したものとも思われる。


 同映像の最後には、南條が“南條愛乃”たりうる理由を大いに実感させられる一幕も見られた。それはアンコール終了後、彼女が客席からの拍手に深々と一礼する場面だ。この後すぐにステージを後にするかと思えば「さ、何食べようかな~。バイバ~イ」と調子よくおどてみせる。そこからドアに手を挟むという小ネタで爆笑を誘いながらも、最後にはひょこっと顔を覗かせて「またね~」と、それぞれの帰り道に優しく送り出したのだった。


 地元の路上ライブでの出会いから、過去の南條自身に心境の変化が生まれたのと同じく、彼女のライブに訪れると、不思議と前向きな気持ちで会場を後にしていることに気がつく。そんな心温まる雰囲気が生まれるのもまた、南條の実直ながらも少しばかり照れ屋で、大きな愛情に包まれた人柄があるからに他ならないだろう。そこには、彼女と同じ空間を共有し、ともに遊べる“ごきんじょ”たちの存在も欠かすことはできない。


 ここまで紹介したステージ映像はもちろん、新曲やライブ音源なども大いに楽しめる『LIVE A LIFE』。同作が、南條を含むすべての人々にとって、明日からの“人生を生きる”活力を与えられるような作品になることを心より願いたい。(一条皓太)