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なぜインターンシップは失敗するのか 「誰も採用できなかった」のにはワケがある

2019年08月08日 11:50  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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新卒採用を行っている企業の「インターンシップ」実施率は95.9%(リクルートキャリア調べ)と、驚異的な割合です。学生の約6割が参加しているとのことで、新卒採用においてインターンシップは最早「ふつうのこと」になっています。

ここには多数の1Dayインターンシップ(実質は単なる会社説明会に毛が生えたもの)が含まれているので、がっつりとパワーをかけた本当のインターンシップはもっと少なくはなるでしょう。それにしても、インターンシップが一般化していることは事実です。(人材研究所代表・曽和利光)

採用担当者の嘆き「あれだけ盛り上がったのに」

しかしながら、残念なことに、一部のうまくやっているところや人気企業を除けば「結局、インターンシップからは誰も採用できなかった」とおっしゃるところが多いのです。

多くの採用担当者は「インターン自体はあれだけ盛り上がったのに、結局、参加者は本選考受験さえしなかった……」と嘆いています。

もちろん、インターンシップは学生が自分のキャリアを考えるための機会を企業が提供するのが本質ですから、それを嘆くのは筋違いと思うかもしれません。

しかし、民間企業が純粋にボランティアでインターンシップをするわけがありません。自社の採用に何らかのメリットがあってほしいと望んでやるわけです。さて、何がいけなかったのでしょうか。

最大の間違いは、インターンシップを面白いコンテンツにすれば、良い人が来て、採用に結びつくのでは、という考え方です。

「面白いインターンシップ」のワナ

面白いコンテンツで最も惹きつけてしまうのは、アンテナの高い「就職活動意識高い系」です。彼らは就職活動量がとても多く、人気企業や有名企業に入社することを目標としています。そういう人にいくら出会っても、最終的に自社に入ってくれないのは至極当然です。

逆に、普通の会社の採用担当者が会うべき人は、他に熱中していることがあり就職活動はほどほどという「就職活動意識低い系」(あくまで「就職活動」の意識が低いだけ)です。

彼らは、一定の基準を満たしていれば、ぱっと進路を決める確率が高い傾向にあります。そういう人たちに会うには、マス広報をやっていてはダメ。彼らはそんなものは見ていません。

最も効果的なアプローチは、社員や内定者の後輩や知人などのネットワークを通じて集客をするリファラル(紹介)リクルーティングです。「こんなインターンシップがあるんだけど、来ない?」と誘ってもらって集客するのが一番。こうすることで「自分からは行かないが、尊敬する先輩から勧められたら行く」という人に会えるからです。

スカウトメディアの利用も効果的です。広告を出して応募を待つのではなく、登録している学生を検索して調べ、良さそうな人にスカウトメールを打つなどしてアプローチする。そうすれば、効率的な就活をしようと考える「就職活動意識低い系」に会えるのです。

学生は「そこで出会う人」を吟味している

インターンシップのもうひとつのワナは「インターンシップのメインコンテンツ」自体が、就活生にとってのメインコンテンツになる、と考えてしまうことです。例えば、インターンシップでビジネスプランコンテストなどを実施する企業がありますが、それは呼び水であってメインではありません。

学生は面白コンテンツを味わいに来ているのではなく、その会社にいる人や集まってくる学生の雰囲気やレベルを吟味しに来ているのです。つまり、そこで出会う人とのコミュニケーションが、本当のメインコンテンツなのです。

極端な話、フラットな場でいろいろ語り合える「懇親会」こそ勝負所です。そこで学生にどれだけ刺さる印象を与えられるのかが重要です。

ところが、多くの会社は懇親会を本気でやりません。採用担当者すら、気を抜いてリラックスして本当に懇親していたりします。本気の懇親会は接待と同じです。学生に媚びろという意味ではなく、コミュニケーションを計算し尽くすということです。

まず、立食などもってのほか。座席を決めずしてコミュニケーションをコントロールなどできません。誰と話をさせたいかということや相性などを考えながら座席を考えます。そして計画的に社員側をローテーションさせ、学生にインプットしたい情報を聞いてもらえるようにします。

また、懇親会は会社からの情報を学生にインプットさせる場だけでなく、学生からの情報を拾う場でもあります。気楽な場では本音が出ます。就職志向や本当の志望企業、自社に対する不安など重要情報が聞けます。これをちゃんと収集して、後の学生フォローにつなげなくてはいけません。これくらいのことをして、ようやく懇親会が役に立つのです。

「常識通りにまじめにやる」から失敗する

ここまでしても、インターンシップに来るような活動的な学生は、さっさと自分で行きたい企業を見つけて去っていくかもしれません。しかし、そこで諦めるならインターンシップなどしないほうがマシです。

彼らに追いすがるのではありません。インターンシップの参加学生が採用対象としては見込みがないとわかったら、すかさず方針変更です。彼らの周囲にいる人をターゲットにするのです。

インターンシップでリレーションができた学生は貴重な存在です。皆さんの会社のインフルエンサーになってくれます。彼らにその後の採用イベントへの集客や紹介を依頼するのです。ちゃんとリレーションができてさえすれば、恩義を感じた学生はきっと動いてくれます(動かないなら、それはリレーションができていないということです)。

以上、インターンシップの失敗の原因とその対策について考えてきましたが、要は「常識通りにまじめにやる」から失敗するということです。面白コンテンツを作ることを努力するのではなく、リファラルなどの草の根の集客に力を注ぐ。メインコンテンツよりも、懇親会を頑張る。参加者学生に執心しないで、ダメならさっさと次の人を狙う。

最初からこういう意識を持って行うのであれば、本選考では来ないような優秀な人も集められる(正式な受験でない方が気楽に来やすい)ので、インターンシップは大変効果的な採用施策です。せっかく多大な労力をかけるのですから、無駄にならないように是非いろいろ工夫してみてください。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/