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『ルパンの娘』意外性のあるキャスティングが功を奏す? 過去最高の深田恭子との化学反応

2019年08月08日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ルパンの娘』(c)フジテレビ

 深田恭子が泥棒一家の娘を演じる『ルパンの娘』(フジテレビ系)が好評だ。放送前は、ベタを上塗りしたような泥棒一家のビジュアルの既視感を指摘する声もあったが、フタを開ければ王道コメディとして話題を呼んでいる。


 『ルパンの娘』の原作は横関大の同名小説であり、ドラマの演出を武内英樹、脚本を徳永友一という映画『翔んで埼玉』コンビが手がける。キレのあるギャグが炸裂する同作のカギを握るのはキャスティングだ。主人公・三雲華(深田恭子)が暮らす泥棒一家「Lの一族」は、父を渡部篤郎、母を小沢真珠が演じており、兄が栗原類、祖父母は麿赤兒にどんぐりという、見るからに怪しすぎるファミリーだが、原作の余白を生かした自由度の高いキャラクターを振り切った演技で表現している。


 ところが、あらためて実年齢に目をやると、現在37歳の深田恭子に対して、渡部篤郎が51歳、小沢真珠が42歳であり、栗原類に至っては24歳という驚愕の事実が発覚する。現実にはありえないキャスティングのように思えるが、実は武内作品には「前歴」があった。『翔んで埼玉』では、GACKTに実年齢差27歳の高校生役をオファー(ちなみに二階堂ふみもGACKTと同級生の“男子”役)したほか、映画『テルマエ・ロマエ』では、古代ローマ人役の主要キャストに阿部寛や市村正親、北村一輝らを起用。封切り前に「顔の濃さと演技力で決めている」と評された配役で、古代ローマと現代日本を行き来する実写版タイムスリップコメディを見事に成立させていた。


 マンガが原作の『翔んで埼玉』と『テルマエ・ロマエ』では、年齢や国籍を度外視した大胆なキャスティングが、観客が非現実的な設定を受け入れるのに一役買っているように見える。演出の視点からは、その大胆さも含めて王道のキャスティングととらえることもできる。「キャスティングでおおよその演出は終わる」と言われるが、多くの作品で、意外性のある配役が予想外のケミストリーをもたらしてきた。この点、原作ものの実写化を手がけてきた武内作品のキャスティングは、意外性が生み出す掛け算の演出と言えるだろう。


 配役にとどまらず、『ルパンの娘』には随所に遊び心のある仕掛けが施されている。豪華なのか安っぽいのかわからないLの一族の登場シーンや、華の毎度の決めポーズにはわかっていても笑ってしまう。華の恋人・桜庭和馬役の瀬戸康史は、さすが「仮面ライダー俳優」と思わせる反射神経とアクションの冴えを見せる。大貫勇輔演じる円城寺輝のミュージカルシーンや、昭和感を前面に出したサカナクションによる主題歌「モス」の挿入も心憎い。『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)で『ソウルドラマアワード2007』の最優秀音楽監督賞を受賞するなど、音楽を情景描写とシンクロさせることに定評のある武内監督らしい演出だ。


 クセになりそうなフックが満載の『ルパンの娘』だが、最大の見どころは、なんといっても主演の深田恭子だろう。近年は『ダメな私に恋してください』、『初めて恋をした日に読む話』(いずれもTBS系)などのラブコメ路線が定着しつつあるが、シリアスからコメディ、時代劇やサスペンスまで幅広くこなす日本を代表する女優である。今回、泥棒一家の長女として、全身をタイトなコスチュームに包んだ姿から、映画『ヤッターマン』のドロンジョを思い浮かべた人も多かったと思われる。実際、『ルパンの娘』で着用する泥棒スーツはデザインをドロンジョの衣装デザイナーが担当しているのだが、10年ぶりのタイトな衣装をなんなく着こなす深田恭子に驚きの声が上がっていた。


 しかし、それ以上に、警察官一家の和馬との禁じられた恋に胸を焦がしながら、Lの一族としての使命に身を投じるというキャラクター造形のすさまじさに引き込まれる。悲劇と喜劇の両極をハイスピードで往復する『ルパンの娘』で、ギャップのありすぎる設定を違和感なく着地させる彼女は、ラブコメもアクションも超越した過去最高の深田恭子なのかもしれない。それだけでも十分に見る価値はある。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。