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【F1ハンガリーGP無線レビュー】チーム戦略に懐疑的だったハミルトン。「本当にこれが正しいコールだったのか分からないよ!」

2019年08月08日 07:41  AUTOSPORT web

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2019年F1第12戦ハンガリーGP決勝 優勝はルイス・ハミルトン(メルセデス)
2019年F1第12戦ハンガリーGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが優勝を飾り、初のポールポジションからスタートしたレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは2位表彰台となった。レース中盤、2ストップ作戦に切り替わったハミルトンは作戦に半信半疑のまま力走を続け、ついにレース終盤にフェルスタッペンをオーバーテイク、見事な逆転劇となった。そんなハンガリーGP決勝を無線とともに振り返る。

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 F1第12戦ハンガリーGP決勝でポールシッターのマックス・フェルスタッペンが1コーナーを制した瞬間、レースはレッドブル・ホンダのものになったと直感した人も少なくなかったのではないか。事実、第1スティントはフェルスタッペンの思惑通りにレースは進んだ。

 最初の綻びは20周目、1回目のピットストップが近付いてきたところだった。

フェルスタッペン:グリップが少し落ちてきた。

レッドブル:了解。

フェルスタッペン:これまで通りのグリップはもうないよ。


 しかし、レッドブルはフェルスタッペンをピットインさせない。後方のフェラーリ勢とのギャップを見て、彼らの前にコース復帰できるようになるまで引っ張りたかったからだ。

フェルスタッペン:大きくグリップを失っているよ!

レッドブル:了解。

 そう言ってから2周後の25周目ようやくピットインする。

 2番手を走るメルセデスAMGのルイス・ハミルトンは1回目のピットストップでアンダーカットを狙うのではなく、第1スティントを引っ張ってオーバーカットを狙っていた。


ハミルトン:このペースでOK? やろうと思えばもっと飛ばせるよ。

メルセデス:了解。このタイヤを良い状態にキープし続けよう。

 しかし、フェルスタッペンがピットインした翌周、タイヤ交換の準備をしながらもこれを撤回した。

メルセデス:第1スティントを引っ張るよ。いまはまだ(フェルスタッペンの逆転について)アンセーフな状況だ。

ハミルトン:これ以上速くは走れないよ!

 オーバーカットが難しいと見ると、メルセデスAMGはさらに引っ張ってフェルスタッペンよりもフレッシュなタイヤで第2スティントに勝負を賭ける戦略を採った。

 31周目にピットインしたハミルトンは6周若いタイヤでアタックを仕掛ける。

レッドブル:HAM(ハミルトン)が後ろに来た。タイヤがフレッシュな間にアタックしてくるはずだ。

 そこからの猛攻をフェルスタッペンは巧みにしのぎ、38周目にはターン4でサイドバイサイドにまでなったがハミルトンが飛び出してアタックは一時中断となった。

ハミルトン:一体どうしたら良いんだ!?


メルセデス:プレッシャーを掛け続けろ。

ハミルトン:プレッシャーを掛け続けるなんてことはできないよ!

 フェルスタッペンに接近してプッシュし続けたハミルトンは、一旦バックオフしてブレーキ温度のばらつきとパワーユニット温度の上昇を抑えなければならなかった。ハミルトンがマシンに問題を抱えたのかとフェルスタッペンが思うほどだった。

フェルスタッペン:彼はマシンにダメージがある?

レッドブル:ブレーキ温度のスプリットとパワーユニットの温度をコントロールしているんだ。

 しかし、ハミルトンは再びじわじわと差を縮めてくる。

フェルスタッペン:僕にフルパワーをくれ! それが必要だ!

レッドブル:君はフルパワーで走っているよ。


フェルスタッペン:彼がDRSを使えるかどうか常に伝えてくれ。

 ハミルトンは2ストップ作戦に切り替え、ハードタイヤを早々に使い切ってしまっても構わなかったからだ。その一方でフェルスタッペンは残り45周もの距離を走り切るためにタイヤを労りながら走らなければならなかった。

 そしてハミルトンは48周目にピットに飛び込み、ミディアムタイヤに履き替える。その瞬間は23秒ものギャップが広がり、ハミルトン自身もこの作戦を成功させられるのかどうか半信半疑だった。しかしメルセデスAMGは自分たちの計算と実力を信じた。

ハミルトン:本当にこれが正しいコールだったのか分からないよ!

メルセデス:了解。でも君にはこの作戦を成功させるペースがある。

ハミルトン:彼はかなりまだ遠いよ。

メルセデス:さっきのラップで19秒差、ラップタイムは17.4と20.4だ。

 一方のレッドブルは1周後にピットインしてもアンダーカットされるのは確実で、残された唯一の選択肢はそのまま最後まで走りつづけて首位を守りきることだけだった。


フェルスタッペン:彼が速いなら僕らもピットインしよう。

レッドブル:それはできない。もしピットインしたらハミルトンの後ろになってしまう。

 しかしハミルトンとしてもここから先は決して楽な道のりではなかった。ピットアウト直後は2秒速かったラップタイムも、フェルスタッペンが必死にプッシュし始めてからは0.6~0.8秒差程度でしかなくなった。


メルセデス:VER(フェルスタッペン)はタイヤリミットになると我々は考えている。

ハミルトン:そんなの僕らもそうだよ!

メルセデス:VERは19.5

ハミルトン:19.5って言ったの!?

メルセデス:そうだ、フリーエアでパワーユニットはフルパワーで走っている。しかしキャッチアップできるはずだ。

 残り10周を切ろうかというところで差は10秒。ハミルトンもタイヤの寿命は決して楽ではない。

メルセデス:レースの最後に追い付く。ラバーはほぼゼロになる。

ハミルトン:最後にタイヤがどのくらい残るか分からないよ。

メルセデス:そんなの関係ない。やれるだけやってくれ。

ハミルトン:ブレーキは問題ない?

メルセデス:大丈夫、マージンはある。

 ハミルトンはここから1周2秒以上速いペースで猛攻を仕掛けて行く。

 そして64周目、フェルスタッペンはタイヤのグリップが限界に達してしまった。

フェルスタッペン:タイヤが死んだよ。

レッドブル:了解。必要なら1周につき4秒間、4周の間オーバーテイクボタンを使っても構わない。彼が追い付いてきたら使え。

 しかしオーバーテイクボタンによる加速がほとんど意味をなさないほど、タイヤのグリップ差は大きすぎた。あっと言う間にハミルトンはフェルスタッペンを射程圏内に捕らえた。

メルセデス:OK、ルイス。ギャップはもう伝える必要はないね。あとは君次第だ。

 そして67周目のメインストレートでDRSを使うと一気に並びかけ前へ。フェルスタッペンは為す術なく首位を明け渡すしかなかった。

 自分たちでさえ不可能ではないかと思ったほどの戦略、なり振り構わずタイヤを使い切る走りをしなければ果たせなかったほどの大逆転優勝を、ハミルトンとメルセデスAMGは為し遂げた。戦略責任者のジェームス・ヴァレスもチェッカードフラッグを受けた直後のハミルトンに直接語りかけた。

メルセデス:ワオ! なんてドライブ、なんて戦略だ! 良くやった! 本当に素晴らしいドライブだったよ。

メルセデス:ルイス、ジェームス(・ヴァレス)だ。厳しい戦略をよくやってくれた、本当にありがとう。

ハミルトン:ボノ(レースエンジニアのピーター・ボニントン)、ジェームス、本当に君たちはキッツいヤツらだな! 最高に良い気分だよ!

 レッドブル・ホンダが急激に力を付け追い詰めたからこそ、王者メルセデスAMGが全力を出し切り、名勝負が生まれた。それがハンガリーGPの近年稀に見る激戦だった。