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『あなたの番です』に惹きつけられる理由は犯人探しだけではない 視聴者を震わす“2組の愛”

2019年08月08日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)日本テレビ

 一つの謎が明らかになったかと思えば、また次々と不可解な出来事が起こっていく……。『あなたの番です』(日本テレビ系)の視聴者の中にはーーこれもまたある意味で、一つの恐ろしい現象なのかもしれないがーーその不気味なドラマの世界観にどんどん引き込まれていく人々もおり、TwitterをはじめSNS上では様々な感想や議論が飛び交う。


参考:『あなたの番です』ベストエピソードの出来栄えに 巧みな演出光る、田中圭の切ない名シーン


 言うまでもなく本作はフィクションとして観るべきものであって、現実にあのような“ゲーム”が起こっていいわけがない。ただ、視聴率の推移やSNSの反応に示されているように、『あなたの番です』というドラマには、一つの作品として観る者を不思議に惹きつける魅力が隠されているのもまた事実なのだろう。ここで、「反撃編」以降の気になる物語の要素を振り返りつつ、話題や反響を呼ぶその魅力を少し覗いてみよう(この記事では事件に関する推理は特にありません)。


 「反撃編」でも前半パート同様に、ほぼ毎話の放送で衝撃的な展開が描かれるため、視聴者は毎週のようにハラハラドキドキさせられる。奇妙極まりない形で遺体が発見されたり、ある登場人物の意外な裏の一面が明かされたり。もちろん、こうした一連の“ゲームの展開”も前半と同じように巧みに作られているのだが、「反撃編」の見どころはこれまでの伏線の回収、そして翔太(田中圭)がどのように「反撃」を成し遂げ、“ゲーム”を終わらせるのかという点に集約されるだろう。


 ところで、翔太のパートナーであった菜奈(原田知世)は前半の終盤で、あまりにも理不尽な形でこの世を去っていった。菜奈が死ぬ間際のビデオはひどく残酷で、それを見させられた翔太が怒りに震えるのも無理はない。『あなたの番です』では、これまでの物語の中で翔太と菜奈の間の愛を描くシーンが何度も描かれてきた。菜奈がまだ生きていた頃には、2人のラブラブな様子が何度も映し出されていたものである。とりわけ「特別編」で描かれた、出会ったばかりの頃の2人のシーンはどれも微笑ましいものばかりであった。そして、翔太の菜奈への愛は死後も変わらない。菜奈のいないリビングで、翔太が菜奈に思いを馳せるシーンは、いつ見ても切なく、胸が締め付けられる。2人の「愛」を描くシーンは、本作のグロテスクなシーンと対極にある。


 誰かを好きになって、愛する。それは翔太と菜奈の間だけの話ではない。まだ、この後の展開の予測がつかないので断言はできないが、それは、どーやんこと二階堂(横浜流星)と黒島(西野七瀬)の間にも起こりそうな予感がする。あまり人と交わるのが得意ではない節がある彼が、心を徐々に動かしていく過程は、どこか微笑ましい。人の匂いを嫌うものの、黒島は大丈夫だと感じた二階堂。翔太に当初指摘された好意は、あながち間違っていなかったのだろう。


 以降、二階堂と黒島の2人のシーンは随所で描かれていく。不審な男から逃れるために、黒島が二階堂を誘って一緒に帰宅するシーン(ただし、二階堂からのルールで何もしゃべらない)。大学の食堂で、同じテーブルで話すシーン。二階堂が黒島を背負って歩くシーン。病院のベッドで眠る黒島の顔に、二階堂がそっと顔を寄せるシーン。意識が戻った黒島がいる前で、思わず気持ちをすべて話そうとしてしまうシーン……などなど。


 『あなたの番です』の物語の本筋からはかけ離れるが、不条理で、残酷で、無慈悲な「交換殺人ゲーム」というシステムが生み出す生々しいシーンの一方で、こうした登場人物たちのささやかな人間ドラマは、観ている者に束の間の安心感をもたらす。


 憎しみや恐怖が原動力になって人々を駆り立てる“ゲーム”とは違い、純粋に好きだという気持ち、一緒にいたいという気持ちで織り成される人間たちの在り方。翔太と菜奈の関係であれ、二階堂と黒島の仲であれ、恐れや憎しみとは正反対の、人を好きになる、一緒にいたいと思う気持ちがつぶさに描かれているところに、このドラマのもう一つの特徴がある。


 SNS上で推理が盛り上がる「交換殺人ゲーム」の内容とともに、各キャラクターの人間模様を描くストーリーが合わさることで、より興味深いものになっている。(國重駿平)