「あいちトリエンナーレ」の企画展として8月1日から行われた「表現の不自由展・その後」は、展示内容への批判や関係者への脅迫が相次いだことを受け、開始から3日で中止に追い込まれた。「あいちトリエンナーレ」で企画アドバイザーを務める東浩紀さんは7日、自身のツイッターで今回の騒動について、
「今回のできごとについて、スタッフのひとりとして、愛知県民の皆さま、出展者の皆さま、関係者の皆さまにご迷惑をかけたことを、心よりお詫びいたします」
と謝罪した。その上で、あいちトリエンナーレでの自身の立ち位置について、
「ぼくの肩書きは『企画アドバイザー』となっていますが、実行委員会から委嘱された業務は、芸術監督のいわば相談役です。業務は監督個人との面談やメールのやりとりが主で、キュレイター会議には数回しか出席しておらず、作家の選定にも関わっていません」
と説明した。
「情報公開や会場設計を含め、もっと丁寧な準備と説明が必要だった」
しかし、騒動に火を付けた慰安婦像や天皇制に関する作品の展示は事前に知っていたとも明かす。そのため、問題の発生を予想できる立場にありながらこうした騒動になってしまったことについて「責任を痛感している」と心境を語った。
「けれども、問題となった『表現の不自由展・その後』については、慰安婦像のモデルとなった作品が展示されること、天皇制を主題とした作品が展示されることについて、ともに事前に知らされており、問題の発生を予想できる立場にいました。相談役として役割を果たすことができず、責任を痛感しています」
また、「僕は7月末より国外に出ており、騒動の起点になった展示を見ていません。今後も見る機会はなくなってしまいましたが、そのうえで、展示について所感を述べておきます。以下はあくまでも僕個人の、報道や間接情報に基づく意見であり、事務局や監督の考えを代弁するものではないことにご留意ください」と前置きした上で、争点となった慰安婦像について個人的な見解を述べていた。
「いま日韓はたいへんな外交的困難を抱えています。けれども、そのようないまだからこそ、焦点のひとつである慰安婦像に、政治的意味とはべつに芸術的価値もあると提示することには、成功すれば、国際美術展として大きな意義があったと思います」
「政治はひとを友と敵に分けるものだといわれます。たしかにそのような側面があります。けれども、人間は政治だけで生きているわけではありません。それを気付かせるのも芸術の役割のひとつです。あいトリがそのような場になる可能性はありました」
「ただ、その役割が機能するためには、展示が政治的な扇動にたやすく利用されないように、情報公開や会場設計を含め、もっとていねいな準備と説明が必要だったように思います。その点について、十分な予測ができなかったことを、深く反省しています」
天皇の肖像を用いた作品は「あまりに説明不足」「配慮を欠いていた」
もうひとつの争点になった天皇制に関する展示についても思いを述べた。東氏は「天皇制に反対する立場ではない」というが、同時に「『天皇制を批判し否定する人々』の存在を否定し、彼らから表現の場を奪うことも、してはならない」と考えていることも明かした。
「つぎに天皇の肖像を用いた作品について。ぼくは天皇制に反対する立場ではありません。皇室に敬愛の念を抱く多くの人々の感情は、尊重されるべきだと考えます。天皇制と日本文化の分かち難い関係を思えば、ぼく自身がその文化を継承し仕事をしている以上、それを軽々に否定することはできません」
「けれども、同時に、『天皇制を批判し否定する人々』の存在を否定し、彼らから表現の場を奪うことも、してはならないと考えます。人々の考えは多様です。できるだけ幅広い多様性を許容できることが、国家の成熟の証です。市民に多様な声の存在に気づいてもらうことは、公共事業の重要な役割です」
しかし、この展示も慰安婦像と同じく「説明不足だった」と振り返る。
「しかし、これについても、報道を見るかぎり、その役割を果たすためには、今回の設営はあまりに説明不足であり、皇室を敬愛する多くの人々の感情に対して配慮を欠いていたと感じています。この点についても、役割を果たせなかったことを悔いています」
「政治が友と敵を分けるものだとすれば、芸術は友と敵を繋ぐものです。すぐれた作品は、友と敵の対立などどうでもよいものに変えてしまいます。これはどちらがすぐれているということではなく、それが政治と芸術のそれぞれの役割だと考えます」
「にもかかわらず、今回の事件においては、芸術こそが友と敵を作り出してしまいました。そしてその対立は、いま、どんどん細かく、深くなっています。それはたいへん心痛む光景であり、また、私たちの社会をますます弱く貧しくするものです。それは、あいトリがもっともしてはならなかったことです」
イベント相談役は辞任せず「今年度の委嘱料辞退を申し出た」
「表現の不自由展・その後」の騒動に続く形で、ネットではトリエンナーレの芸術監督を務めた津田大介さんとの対談動画に注目が集まった。対談内容については、「多くの方々の感情を害する発言を行ってしまったことを、深くお詫びいたします」と謝罪した。
「僕は今回、アドバイザーとして十分な仕事ができませんでした。辞任を検討しましたが、いまは混乱を深めるだけだと考えなおしました。かわりに個人的なけじめとして、今年度の委嘱料辞退の申し出をさせていただきました。今後も微力ながらあいトリの成功に向けて協力させていただければと考えています」
「あらためて、このたびは申し訳ありませんでした。力不足を反省しています。そして最後になりましたが、現在拡散されている4月の芸術監督との対談動画において、多くの方々の感情を害する発言を行ってしまったことを、深くお詫びいたします」
東氏は自身の考えを述べた後、「謝罪と反省は無制限に罵倒メールを受け止めるということを意味しませんので、いままでどおり粛々とブロックは行います。誤解なきようよろしくお願いします」ともツイートしていた。