イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーがドゥカティのゼネラルマネージャー、ルイジ・ダリーニャにインタビューを実施。ドゥカティが抱えている問題点のひとつである中速コーナーのコーナーリング。この問題をダリーニャはどう考えているのか。また改良に向けた対策は行われているのか。
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ドゥカティは、エンジンを中心にMotoGPバイクを作り上げることを好む。最初の9シーズンにおいて、ドゥカティのファクトリーは文字通りそうしていた。デスモセディチGPは本質的にエンジンにステアリングヘッドとスイングアームが留め付けられたものだった。馬力に焦点を置くことには大きな意味がある。コーナーよりもストレートでオーバーテイクをするのが楽になるからだ。それが常にドゥカティのやり方だった。
ドゥカティのマシンコンセプトは、しばらくの間機能したし、今でもコースレイアウトによっては有効だ。それはケーシー・ストーナーがデスモセディチGPで走行する時に最大の性能を発揮した。オーストラリア出身の天才であるストーナーは、フロントブレーキ、リヤブレーキ、スロットルをコーナー通過中にずっと調節していた。だが最終的に、ドゥカティのコンセプトは失敗に終わった。
初期のデスモセディチGPにはふたつの大きな欠点があった。コーナー進入時とフロントエンドの感触の悪さ、そしてコーナー立ち上がりでサスペンションが大きく膨張することだ。
2007年型デスモセディチGPが、小型のフロントフレームに非常に長いスイングアームを備えていることに注目してほしい。 最初の問題は、ほとんどがその小型のフロントフレーム(最初はスチール、そしてカーボンファイバー)のせいだった。このせいでバンク角を増す際に重要となる、ターニング/コーナリングを助ける必要不可欠な側面のたわみが十分に出なかったのだ。
ふたつめの問題は、非常に長いスイングアームにあったかもしれない。一部のシャシーエンジニアは、このデザインによって加速時にリヤサスペンションの過剰な収縮を防ぐことができるチェーンフォース(チェーンから伝わる力)やアンチスクワット(リヤを沈みこませない技術)のコントロールがやりにくくなったと考えている。
ドゥカティは2011年末にマシンの方向性を転換した。日本のファクトリーチームが1980年代以降使用しているのと同じ種類の、アルミニウム製フレームに切り替えたのだ。そして2016年、ドゥカティはストーナーが離脱して以来初めてMotoGPレースで優勝した。この勝利は、シャシーの改善の成果であり、もうひとつにはミシュランタイヤとマニエッティ・マレリ製の共通電子ソフトウェアへの切り替えが功を奏した。
2017年と2018年の間に、ドゥカティは13戦で優勝し、アンドレア・ドヴィツィオーゾはその間にレプソル・ホンダのマルク・マルケスについで2位になったことが2度あった。だが2019年はさらに厳しい年になっている。デスモセディチGP19の競争力が劣っているのではなく、スズキとヤマハがさらに競争力を増しているため、そのことがデスモセディチGPのアドバンテージを打ち消してしまい、中速コーナーでのコーナリングというひとつの大きな弱点が強調されてしまっているのだ。
中速コーナーのコーナリング問題は新しいものではない。実際、2016年にドゥカティのテストライダーとなったストーナーが2017年に役目を降りた理由のひとつとして、エンジニアたちがこの問題に対する彼の意見に反応を示していないと感じていたことがあるという。
ドゥカティがいかにしてデスモセディチGPの問題点を改良するのか。私はドゥカティ・コルセのゼネラルマネージャーを務めるルイジ・ダリーニャと話をした。ダリーニャはインタビューで多くを明かさずに話すことにかけては名手である。私はベストを尽くした。
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Q:イタリアGP以降、ドヴィツィオーゾは中速コーナーでのコーナリングに多くの不満を述べている。オランダGPでは改良版フレームを使っているが、その違いはどんなものか?
ルイジ・ダリーニャ(以下、ダリーニャ):我々はフレーム剛性に目を向けているが、ライダーがコーナー中盤で速さを出す助けになる他のことについても検討している。シャシー剛性が項目のひとつに入っているのは確かだ。シャシーにはさまざまな剛性があり、問題を解決するための最も重要な剛性を選ばなければならない。これは簡単なことではない。
Q:フレーム側面の剛性は主要な領域ですか?
ダリーニャ:どの領域に対して作業を行なっているか正確なことを話すことはできない。私は技術者だ。技術者というものは多くを語りたがらないものなんだよ(笑)
Q:ドゥカティのMotoGPマシンはライダーがエンジン出力のアドバンテージを活かせるように設計しているということは正しいか?
ダリーニャ:それは事実だ。
Q:では、他の部分を犠牲にすることなしにどのようにマシンを改善できるのか?
ダリーニャ:他の領域にあるものを犠牲にすることなしに、ライダーの持つ問題を可能な限り解決するには、ベストを尽くさねばならない。もちろん時にそれが不可能なこともある。だから必要なことと、持てるものの間で、妥協しなければならないこともある。
私は我々の目標が不可能だとは考えていない。簡単ではないし、時間がかかることは確かだ。我々は長年にわたり加速だけでなく、中速コーナーでのスピードも改善してきたのは確かだ。
現実にはバイクを改善するためにはアイデアが必要で、私はライダーがバイクについて最も不満を持っている領域を開発したいと思う。だが別の領域についてアイデアが沸いたら、私はそのアイデアを実行しないではいられない。なぜならラップタイムにおいてアドバンテージとなるかもしれないからだ。
だからライダーの要求と、自分がその時に持っているアイデアの間で妥協することになる。時には、そのアイデアがライダーを満足させるために必要なものかもしれない。その他の時には、別の解決策によって別の改善を図ることになる。
Q:ラップタイムが拮抗しているという事実は、物事をさらに複雑にしている。なぜなら1周あたりコンマ1秒単位のタイムが期待されているからだ。
ダリーニャ:まったくだ。時には改善できたのかどうかさえ分からない時がある。違いが小さすぎるからだ。
Q:2種類の異なるフレームセットアップが必要なタイミングに来ているのか? ひとつはストップ・アンド・ゴータイプのコース用、もうひとつは高速で流れの良いコース用といったように。
ダリーニャ:さまざまなレーストラックによって妥協する内容は異なる。コースのレイアウトによって可能な限り最善のバランスを見つけなければならない。アスファルトに十分なグリップがあるかどうかといったような点においてだ。各コースはそれぞれ異なるものが必要になる。
もし、ある特定の変更をバイクに施したらグリップを改善できるし、他の変更を施したらブレーキングの安定性を改善できる。セットアップによって、さまざまな問題を解決するためにさまざまな方向へ向かうことになる。
通常、我々には基準のセットアップがあり、そのセットアップでスタートする。同じ方向性を2、3回実施し、まったく同じ改良を行うことになったら、ベースのセットアップを変える。たとえば、ムジェロ(イタリアGP)とバルセロナ(カタルーニャGP)で、我々はフリー走行1回目のスタートからレースまで、ほぼ同様の変更を行うことになった。だからおそらく標準セットアップを変更する時期に来ている。
Q:ブリヂストンタイヤの時に比べて多くの変更をミシュランタイヤ向けに行っているか?
ダリーニャ:そういうわけではない。多かれ少なかれ同じだろう。
Q:アンドレアが中速コーナーでのコーナリングの問題について話していた時、彼はいまだにフロントタイヤを使っていることを話していたのか? それともリヤタイヤに一旦荷重を移したことについて話していたのか?
ダリーニャ:一番の問題は、ライダーが完全にブレーキをリリースする時、彼はアクセルを開けるのを待っているということだ。
Q:ドゥカティとホンダは両方とも90度V4エンジンを使用している。理論上は同じ強みと弱みを持っているはずだが。
ダリーニャ:程度の差はあるが、これらのバイクはもちろん似ている。
Q:では、なぜホンダはドゥカティと同じ問題を抱えていないのか? 彼らはバイクに何か異なることをしているからか? それとも彼らにはマルク・マルケスがいるからか?
ダリーニャ:正直なところ、そのことはホルヘ(・ロレンソ)と話す必要があるね。なぜなら我々のバイクに昨年乗っていたのは彼だからね(笑)。
Q:インライン4(直列4気筒)とV4のMotoGPマシンには双方に強みと弱みがある。V4がインライン4と同じくらい速くコーナリングをすることは可能か?
ダリーニャ:(長い沈黙の後)正直なところ、コーナリングスピードに関しては、インライン4にアドバンテージがあると思う。V4を使うのなら、この問題があることを理解しておかねばならない。この問題の影響をできる限り減らすためにセットアップを調整する必要がある。
Q:アンドレアはフロントタイヤのポップアップ(ライダーがブレーキをリリースすると、タイヤにかかる荷重が減り、タイヤが元の形状に戻ろうとして接地面が少なくなること)について多く語っている。この件について彼を助けるか、それとも彼次第のことなのか?
ダリーニャ:セットアップについては何かしらできることがある。だがほとんどはライダーの手でどうにかすることだ。なぜならどれだけ早くブレーキをリリースするかによって、どれだけ早くタイヤへの荷重を減らすかが決まるからだ。
Q:現在ではフロントタイヤの接地面についてコンピュータによるモデリングを行なっていますか?
ダリーニャ:そうだね、我々はMegaRide社(タイヤパフォーマンスのコンピュータモデリングを専門とするイタリア企業)とともに作業を行なっている。だが現在のソフトウェアは、接地面について本当に優れたシミュレーションをするには十分ではない。
Q:ダッシュボードにはバンク角度の測定機器がついているか?
ダリーニャ:あるよ。みんなつけていると思う。それは予想バンク角度で、実際のバンク角度ではない。長年にわたり、我々はバンク角度をより正確に推定する、さまざまなアルゴリズムの開発を行なってきた。これは大きく進歩し、ライダーにとって大いに役に立つものになっている。
Q:では、ライダーは走行中にバンク角度を確認しているのですか?
ダリーニャ:そのとおりだ。ある種の推定を行なっている。バイクの平均バンク角度や、ライダーのポジションなどだ。たとえば、ダニロ(・ペトルッチ)のバンク角度は、アンドレアとは違う。なぜなら彼らは同じコーナリングスピードを出すために、異なるボディポジションとバンク角度で走るからね。
Q:2016年まで、ファクトリー製電子制御と、予測精度の高いソフトウェアなどを使っていた。あなたは現在の共通ソフトウェアの方を気に入っているか?
ダリーニャ:確かにそちらの方がより面白いよ。それに誰もがおかしなアルゴリズムのものを使っていた2015年以前よりも、ライダーとバイクのパフォーマンスは近づいている。
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バイクを本当にコントロールするのはライダーであるべきだ。ライダーだけがバイクを速くすることができるのだ。トラクションコントロールや他のコントロールができることには限りがある。もしバイクのコントロールをソフトウェアに任せたら、ラップタイムが遅くなることは確かだ。だからライダーが感触を掴むことが重要なのだ。