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「痴漢が出た場所」を可視化する「痴漢レーダー」 通報で被害データ集め、対策強化促す

2019年08月07日 10:41  弁護士ドットコム

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「こういうのを待ってた」——。痴漢に遭ったら通報し、どこの場所で被害が多いかを可視化していく「痴漢レーダー」( https://chikanradar.qccca.com/ )のサービスが8月1日からスタートした。


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痴漢被害に遭ってしまったら、位置情報とともに「痴漢レーダー」に通報すると、痴漢が出没した場所などの被害発生状況が、地図上に表示される。また、LINEで友だち登録したり、Twitterをフォローしたりしておけば毎日、前日までに発生した痴漢被害の最新情報が届けられる。



ネットではすでに反響が大きく、LINEの友だち登録も開始5日目で4600件を超えている。運営するベンチャー企業、QCCCA(キュカ)では、「被害が起きている場所のデータを鉄道会社や警察に共有し、パトロールの強化や監視カメラの設置などをしていただくなど、痴漢撲滅に働きかけていきたい」と話している。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●昨日、どこで痴漢被害があったかをLINEでお知らせ

朝7時、LINEを開くと「痴漢レーダー」のアカウントから、前日の痴漢被害情報が届く。ランキング形式で、たとえば8月7日は「原宿駅で3件、京急蒲田駅で2件、椎名町駅で2件」と、痴漢被害が生々しく報告されていた。もちろん、毎日のように痴漢は発生しているのだろうと想像はしていたが、実際に数字を見ると、こんなにも多いのかと驚く。リンク先のサイトを開けば、地図上で、これまでどこで何件発生したかのデータを見ることもできる。



この「痴漢レーダー」を開発したキュカは、元ヤフー社員のエンジニアらが昨年8月に立ち上げた企業だ。最高プロダクト責任者の片山玲文(かたやま・れもん)さんは、「痴漢レーダー」を作ろうと思った理由をこう語る。



「キュカはもともと、人に言いづらい悩みや生きづらさを可視化して、その課題を解決したいと考えています。そうした中、就活ハラスメントの撲滅に向けた活動をしているのですが、学生さんたちから痴漢被害の体験を聞きました。被害者の方たちは、学校に遅刻してまで、警察に通報したくないということをおっしゃっていました」



代表取締役の禹ナリ(ウ・ナリ)さんも、「警察に通報しないのは、通報することで電車が止まったり、遅れたりして、周囲の乗客に迷惑だと思われるのがつらい、という声があったためです。実際に通報したとしても、痴漢行為を証明することも心理的に負担がかかります。ですから、多くの被害者が泣き寝入りをしていることがわかりました」



キュカが7月に実施した痴漢被害のアンケートでは、被害を受けた人のうち10%程しか実際に通報していなかったという。通報しない理由としては、「ショックな事態から立ち直るのに時間がかかった」「周囲に迷惑をかけるから」というコメントが寄せられていた。



●「いつまで痴漢の被害者たちに自衛させるのか」

折しも同時期、ネットでは痴漢に対して、安全ピンで自衛する被害者たちが話題になっていた。これを受け、文具大手のシヤチハタが、痴漢対策ハンコを開発するとツイートしたり、安全ピンで自衛した被害者を守る弁護団が結成されたりするなど、被害者の置かれた状況が明らかになりつつあった。



「いつまで痴漢の被害者たちに自衛させるのか。ネットを見ていて、憤りを感じました。海外では、chikanという単語まで使われて報道されています。日本の恥部だと思います」と片山さん。こうした現状に対し、禹さんは、「私たちはIT企業として別の出口を探したいと思いました」と話す。



それが、「痴漢レーダー」だった。もしも痴漢被害に遭ってしまっても、負担が少ない方法で通報してもらい、その情報を可視化していく。蓄積されたデータから痴漢被害が多い場所や時間帯を分析。また、鉄道会社や警察にデータを提供してパトロールを強化してもらったり、抑止のための監視カメラ設置してもらったりすることを考えているという。



「痴漢レーダー」は簡単に通報できるよう、アプリ化はしていない。サイトにアクセスして、位置情報を許諾すれば、誰でも通報できる。現在、電車内の痴漢被害が多いことから、通報があった場所は最寄り駅を自動検知して公表している。



「今後は、痴漢被害があった路線や車両も入力可能にしていくことも考えています。精度の高い情報が集まれば、どの時間帯のどの路線のどの車両に痴漢が乗っているかがわかるようになります。鉄道会社や警察と共有すれば、具体的な痴漢撲滅の対策をとることができます」と禹さんは話す。



スタートから1週間。連日、痴漢被害の報告が寄せられている。「ネットでは『こういうのを待っていました』という声もあり、みなさん本当に困っていたのだなと思いました。実は男性からも、作ってくれてありがとうという声を聞きました。その男性は痴漢被害に遭ったとき、屈辱的だったし、男だから言いづらいという悩みを抱えていたそうです」片山さん。「痴漢レーダー」に対する被害者の期待は大きい。



「ただ、データが集まらないと痴漢対策につなげることはできません。できるだけ広めて、みなさんが使ってくだされば、原動力になります。被害者ひとり一人の力は小さいですが、その力を集めて痴漢撲滅を実現したいです」と禹さんは話している。





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