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須田景凪が『炎炎ノ消防隊』や『ニノ国』主題歌に抜擢された要因 若者層から広がる気鋭の才能

2019年08月06日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

須田景凪

 “ネット発アーティスト”が続々と登場する昨今、ネクストブレイクと呼び声が高いシンガーソングライター・須田景凪の存在感が増している。須田は先日、7月14日中野サンプラザホールにて、『須田景凪 TOUR 2019 “teeter”』追加公演を成功させたばかりだ。『週刊少年マガジン』連載中作品をTVアニメ化した特殊消防隊の活躍を描いた『炎炎ノ消防隊』(MBS・TBS系)エンディング主題歌「veil」への起用など、大きなタイアップが続いていることからも注目度の高まりを感じることができる。


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 決定打となるのは今夏話題の映画作品へのタイアップだろう。製作総指揮・原案・脚本を日野晃博(レベルファイブ)、監督にスタジオジブリでの活躍でも知られる百瀬義行、音楽では久石譲、主演は声優初挑戦の山﨑賢人らによるアニメ映画『ニノ国』。同作の主題歌として、須田景凪が新曲「MOIL」を書き下ろしたのだ。しかも、『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』や『イナズマイレブン』、『妖怪ウォッチ』などのヒットメイクで知られる日野晃博から直々の熱いオファーを受けたという。


 30代以降の世代で“須田景凪”という名前を知る人はまだそんなに多くはない。しかし、須田は10代~20代から絶大な支持を得ている。実は須田は、バルーン名義でボカロPとしても活躍。代表曲「シャルル」で大ブレイクしている存在だ。2017年、2018年の『年代別JOYSOUNDカラオケ年間ランキング 10代部門』において2年連続で1位を獲得した影響力を持つ。さらに今年2019年の『JOYSOUND上半期カラオケ総合ランキング』では、米津玄師「Lemon」、あいみょん「マリーゴール」に続いて「シャルル」が3位にランクイン。驚異的な右肩上がりの人気ぶりに驚きを隠せない。


 なぜ、エンターテインメントシーンで須田へのタイアップが殺到しているのか? それは10代や20代マーケットへの入り口となる表現者であることが大きいだろう。ユーザーの可処分所得ならぬ“可処分精神”の奪い合いがテーマだというクリエイティブ業界。生み出す作品力によって、狙うべきマーケットへとマッチングしてくれる存在がアーティストなのだ。実際、時代の旬を見極め、ティーンカルチャーを開拓し続けてきたプロデューサー日野晃博が評価したポイントもそこにある。


 2019年のエンターテインメントシーンは、拡散力のある“デジタルネイティブ”マーケットがキーワードであり、“SNS文化成熟以降のセグメントされたネット文化”への注目が高まっている。世代的には30代を境に分断されているボカロ文化を代表するヒット曲を生み出し、成長し続ける国内フェス文化へ対応するロックバンドスタイルによって映像の浮かぶドラマティックなナンバーを解き放つ須田への評価は高い。須田の楽曲には、疾走するビートに絡み合う口ずさみたくなるようなメロディ、片時も心を離さない中毒性の高い研ぎ澄まされたサウンドプロダクション。そして、胸を突き刺す抒情的な言葉の力がある。


 ボカロP出身であり、ライブ経験が少ない須田だったが、渋谷WWW、渋谷WWW X、恵比寿LIQUIDROOMを経て、先日中野サンプラザホールでのワンマンライブを成功。これが大きなターニングポイントとなった。中野サンプラザホール公演で見せた、透過する紗幕スクリーンに投影した魔法めいた映像演出。バンドメンバーのモリシー(Gt / Awesome City Club)、雲丹亀卓人(Ba)、堀正輝(Dr)らとともに構築するソリッドかつグルーヴィーなプレイ。同公演のMCで「皆さんからもらった恩は、音楽で返していきます。僕の作る曲が、みなさんの日常の片隅のどこかに溶け込んでくれたらいいと思うし、いつかみなさんの共通の言葉のようになってくれたらいいなと思っています」と語りかけた様は、自信に満ち溢れていたように思えた。


 ライブでも披露した映画『二ノ国』主題歌「MOIL」は、須田らしいギターサウンドを、さらにコンテンポラリーなポップソングにアップデートした中毒性の高いナンバーとなった。着実な進化を感じる、R&Bテイストを取り入れたサウンドだ。本作と、須田らしさに溢れたキャッチーなギターロックアンセム「veil」は、8月21日にリリースする5曲入り2nd EP『porte』へ収録される。さらに2020年春、ワンマンツアー『須田景凪 TOUR 2020』の開催も発表されたばかりだ。2月29日、東京Zepp DiverCity(TOKYO)公演を皮切りに全国7カ所のライブハウスを巡るという。当面の課題は、かつての自分が生み出した「シャルル」を超えるヒット曲を生み出せるかどうか。須田の本質が試されるのはこれからだ。(ふくりゅう)