2019年F1第12戦ハンガリーGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが逆転優勝を飾った。レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは終盤にタイヤが尽き2位表彰台となった。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のハンガリーGPを振り返る。
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ハミルトンとメルセデスチームが持つ本来の力=地力(じりき)が発揮されたハンガリーGPだった。2ストップ戦略成功。フェルスタッペンを最終盤にとらえた逆転勝利、猛追するハミルトンのスパートがそれを可能にした。速さがあれば大胆な戦略も実行できてしまうのだ。
48周目にミディアムタイヤに変えてから、19秒以上あったギャップをぐいぐい削り取っていった。本気モードのハミルトン全力走行だ。55周目には16.048秒差、60周目には10.954秒差……。追われる首位フェルスタッペンが63周目のセクター2エリアでリヤがスライド、危うかった。既に35周しているハードタイヤに急激な変調が見てとれた。さらにセクター3の低速コーナー立ち上がりではトラクションが劣り、ますます苦しい状況だ……。
64周目、3.200秒差。65周目、1.024秒差。66周目、0.382秒差。緊迫のハンガロリンク、オランダ人応援団も固唾をのんで見守る。レッドブルRB15のダウンフォースも接地性が弱まり、2019年型ホンダF1パワーユニット(PU/エンジン)『RA619H』のフルパワーモードも“ドロップオフ”したタイヤではそのパワーを支えきれない。逆に言えばここまでトップポジションを守ってこられたのは、フェルスタッペンのドライバー力と言うべきだ。
最終コーナーを立ち上がるレッドブルの加速が鈍った。背後のハミルトンがメインストレートで追いつめる。そして1コーナーに向けインサイド・ラインをとる相手を難なく、センター・ラインで抜いていった。あっけなかった。
表現するならハミルトンは“ぶち抜くぞ”という感じではなかった。フェルスタッペンも無駄な抵抗はしないかのように映った。ふたりの首位攻防はクリーンでフェア、トッププレイヤー同士ならではのものだった。
前半戦最後のオーバーテイクを残り3周で決めたハミルトン、12戦8勝をおさめ250点。昨年12戦終了時点での5勝、213点をはるかに上回る戦績だ。きっといい夏休みをリゾートで満喫できることだろう。
ふたり舞台で進んだレース展開に誰もついていけなかった。予選2番手のボッタスは、オープニングラップ半周で二度接触し、緊急ノーズ交換を強いられテールエンドに。予選4番手シャルル・ルクレールと5番手セバスチャン・ベッテルのフェラーリ勢はレースペースを欠き、40秒以上も離されて終わった。
予選6番手ガスリーは、スタートで出遅れポジションを下げてしまい周回遅れ、まったく不本意な結果となった。彼らの中のひとりでもハミルトンに追従する3番手がいたなら、メルセデスのストラテジストはあのような“2ストップ”を判断するのは難しかっただろう。フリーストップ可能なポジションだったからこそ、勝負に向かう決断ができたのだ。
戦術として48周目にピットに呼び入れたのは、同じ2位ポジションのままで攻勢に転じられる唯一の実践的な実行手段。コクピットのハミルトンは一時、疑問に思っていたが自力でペースを上げ、勝機をきっちりつかみとった。王道を行く彼らの地力をレッドブルとホンダは見せつけられた。
レースに戻ると、トップ4以外は全車が周回遅れにされた。5位カルロス・サインツJr.(マクラーレン)から14位ダニエル・リカルド(ルノー)までが1周、15位ダニール・クビアト(トロロッソ)から18位アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)までは2周、19位ロバート・クビサ(ウイリアムズ)は3周。
2019年夏の今の『総合戦力構図』があからさまになったハンガリーGP。後半にそなえフェラーリは難題を抱えこみ、2勝したレッドブル・ホンダもさらなる課題を鬩ぎあうなかで初めて知った。そうさせたのはメルセデス・チームとハミルトンだ。ファクトリー閉鎖となる夏休みはあっても、彼らには無いような日々が続くのか。何年も言っているようにF1クライマックスはこれからだ――。