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『いだてん』斎藤工、“かっちゃん”として輝く 日本選手団を率いたキャプテンシー

2019年08月05日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『いだてん』写真提供=NHK

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第29回「夢のカリフォルニア」が8月4日に放送された。いよいよロサンゼルスオリンピックが開幕する。全種目制覇という目標を掲げ、世界相手に物怖じしない田畑政治(阿部サダヲ)と「ノンプレイングキャプテン」という立ち位置に悩む高石勝男(斎藤工)の関係に注目した。


参考:『火焔太鼓』『富久』『替り目』、宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けた“落語”を解説


 世界を前に、政治はとにかく力強い。政治たちは日系人に対する差別を目の当たりにする。日本人がプールに入ると「日本人とは同じ水に入りたくない」とアメリカの選手がプールからあがり始めた。しかし政治は「いいじゃんねえ! 貸切だ!」と差別を物ともしなかった。日本選手団に対してアメリカ選手団が物言いをつけているのを見れば詰め寄り、アメリカ水泳チーム監督・キッパス相手にも堂々とした態度を見せる政治。インタビューに応じたときにはカタコトの英語だが、自信みなぎる言葉を発した。


「オールメダル、を、ジャパンだ!」


 そんな政治の力強さとは対照的に、「一種目モ失フナ」の文字を見つめる高石の表情は暗い。その脳裏には、ロサンゼルスへ出発する前に言われた「勝ち負けが全てだよ」「君を試合には出さん」という政治の言葉が浮かんでいる。選手選考会に向けて高石は練習に励むが、タイムを縮められない。高石は「何がノンプレイングキャプテンや!」と苛立ちを隠せない。だが斎藤の演技からは、高石の怒りの矛先が政治ではないことが分かる。自身の衰えと若手選手の成長を誰よりも感じているからこそ、高石は焦り、苦悩しているのだ。


 そんな中、政治が勝ち負けにこだわる理由が明かされた。「日本を明るくするためだ」と言う政治。暗いニュースが続く日本を明るくするために全種目制覇という目標を掲げたのだ。「スポーツが日本を明るくするんだよ! たった数日間だけど、国をスポーツで変えることができるじゃんねえ!」。政治がそう話すのを外で聞いていた高石の目には涙が浮かんでいた。政治が年長者である高石や鶴田(大東駿介)を連れてきたのは、若手の踏み台にするためではなかったのだ。全ては勝利のため、日本のためだった。


 選手選考会当日。そこにいる誰もが高石を応援していた。「かっちゃん!」という声援の中、懸命に泳ぎ続ける高石。高石の勇姿を見届けた政治の目には涙が浮かんでいた。


「かっちゃん、ありがとう。おつかれ!」


 高石は日本代表選手には選ばれなかった。高石の表情に悔いがないとは言えない。けれど、自身の役割を担うことに専念する決心がついたのだろう。「ノンプレイングキャプテンですから」と話す高石は微笑む。ラジオ収録で若手選手の成長を話す高石は、キャプテンとして日本選手団の士気を高めていた。


 第29回で飛び出した政治の名台詞も忘れてはならない。日系人への迫害を恐れるウエイトレス・ナオミ(織田梨沙)に発した台詞だ。「やってみなくちゃわからんだろう!」「なぜ勝てんと言い切る。なぜ決めつける。わからんだろう!」「やってみなくちゃわからんから面白いんじゃんねえ!」。逆境を恐れない政治らしい台詞だ。政治の力強さは人々の背中を押す。日本選手団の活躍が、迫害を受ける日系人の希望になるかもしれない。(片山香帆)