「皆さんが心配していたスタートも今日はうまくいって、先頭を維持してレースを始められたんですが、メルセデスのパフォーマンス、ドライバー、チーム(ストラテジー)に負けました」
F1第12戦ハンガリーGPでレッドブル・ホンダとして、初のポールポジションを獲得しながら、残り4周で優勝を逃したホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは、そう言って悔しさをにじませた。
70周で争われるハンガリーGPの決勝レース。66周目までトップを走行していたマックス・フェルスタッペンはなぜ、優勝を逃したのか。
レース終盤、ルイス・ハミルトン(メルセデス)に迫られたとき、フェルスタッペンは無線で「もっとパワーが欲しい」と言っていたが、ホンダのパワーユニット(PU/エンジン)に特に問題があったわけでもなく、デプロイが切れていたわけでもなかった。それでも、ハミルトンに迫られたのは、タイヤのグリップ力がハミルトンよりも先になくなっていたからだ。
では、レッドブル・ホンダのピットストップ作戦に問題があったのか。田辺TDは「チームとしても、レースのペースを全部見返すと、今日の状況ではベストを尽くせたと言っていました」と、戦略的にミスはなかったと語る。
フェルスタッペンのピットインはハミルトンよりも6周早い25周目だったが、もしハミルトンよりも後でピットインしていたら、その時点でハミルトンにアンダーカットされ、逆転を許していただろう。
実際、そのピットストップ後も、フェルスタッペンはハミルトンの攻撃に耐えたこと。つまり、25周目のピットストップ自体は間違いではなかった。
■状況的に不可能だったマックス・フェルスタッペンの2ストップ作戦
では、ハミルトン同様に2ストップ作戦に変更していたら、どうなっていたのだろうか。もし、ハミルトンが2回目のピットストップを行う前にピットインしていたら、ハミルトンはステイアウトし、1回目のピットストップ以降、フェルスタッペンよりも速いペースで走っていたことを考えると、タイヤ交換しても、フェルスタッペンがハミルトンに追いつくのは難しかっただろう。
次にハミルトンが2回目のピットインをした後に、フェルスタッペンが2回目のピットインをしていたらどうなっていただろうか。タイヤ交換をした後のハミルトンのペースは、一気に上がっていたため、フェルスタッペンは結果的にハミルトンのアンダーカットを許す形となっていたに違いない。さらにハミルトンの前を走行していたフェルスタッペンが、同時ピットインを行うことは不可能だった。
つまり、この日、フェルスタッペンに自力で勝つチャンスは、残念ながらなかった。しかし、田辺TDが「今日の状況ではベストを尽くせた」と言っているように、異なる状況でレースが展開されていれば、フェルスタッペンの優勝もあった。その状況とは3番手以下がハミルトンと20秒差以内でレースしているというものだ。
そうなっていれば、ハミルトンが2回目のピットストップを行うと、3番手に後退してしまうため、メルセデスは2ストップを行わなかっただろう。また行なったとしても、2番手のドライバーを抜かなければならず、チェッカーフラッグまでにフェルスタッペンを攻略できていなかったのではないかと思われる。
ハンガリーGPの予選でポールポジションを獲得したフェルスタッペン。しかし、その速さがレースではフェラーリを置き去りにするというアドバンテージとなった一方で、結果的にハミルトンに戦略の自由度を広げる結果となり、レッドブル・ホンダにとっては仇となってしまった。
「ポールをとって、あそこまでトップを守りながら、負けたことはやっぱり悔しいですが、しっかりと2位表彰台に上がれたことは、今後の戦いにつながるという意味では良い結果だったと思います」
田辺TDはそう言って、夏休み前の一戦を締めくくった。