2019年08月05日 11:11 弁護士ドットコム
愛媛県警は、窃盗容疑で20代女性を誤認逮捕したと7月22日に発表した。時事通信などの報道によれば、女性は7月8日に逮捕され、勾留請求が認められず10日に釈放されていた。釈放後も任意の捜査は続いていたが、捜査の結果、誤認逮捕とわかったという。
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8月1日には、女性は取り調べや現在の心境について手記を弁護士を通じて公表した。朝日新聞によれば、女性に対して「就職も決まってるなら大事にしたくないよね?」「君が認めたら終わる話」「早く認めたほうがいいよ」などと自白を強要するような言動もあったという。女性は「犯人と決めつけて自白を強要する取り調べを受け続けた」と綴った。
また、取り調べについて「私にとってはとても長く、不安、恐怖、怒り、屈辱といった感情が常に襲い、ぴったりと当てはまる言葉が見つからないほど耐え難いものでした。手錠をかけられたときのショックは忘れたいのに忘れることができず、今でも辛いです」と悲痛な思いを訴えた。
今回、県警側は女性に謝罪したそうだ。しかし本人にとっては、人生を揺るがすような出来事だ。誤認逮捕された人はせめて何らかの補償を受けることはできないのか。元検察官の荒木樹弁護士に聞いた。
「刑事訴訟法上、裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは逮捕状を発付することができます。『逮捕』は刑罰ではありません。事案の真相を明らかにするための裁判の準備手続ですから、逮捕した結果、犯人ではないということも、刑事訴訟法の想定の範囲内です。
もちろん、一人の人生にとって、誤った逮捕は、一生を左右しかねない重大な不利益ですから、本来、あってはならないことです。しかし、絶対に誤認逮捕が発生しないということも、制度の上では保証できないのです」
誤認逮捕された人にとっては、人生を揺るがすような出来事のはずだ。せめて、何らかの補償はないのか。
「日本国憲法は、40条において、『何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる』と定め、これを受けて、刑事補償法が規定されています。
ただし、これは、刑事裁判として無罪の宣告を受けた場合に適用されるものです。逮捕、勾留されたものの、結局不起訴処分におわったという場合には、適用されません」
今回のような場合は、補償はされないのでしょうか。
「被疑者補償規程(法務省訓令)の対象となる可能性があります。逮捕または勾留されたものの、不起訴処分となった者で、罪を犯さなかったことの明白な場合に、補償が受けられる制度です。
これは、『罪を犯さなかったことが明白である』ということが要件であり、不起訴事件すべてが補償を受けられるわけではありません。
不起訴には様々な理由があります。罪を犯していることは明白であるものの、情状を考慮して不起訴にした場合や、証拠上、嫌疑が相当に疑わしいもののの、有罪の確証が得られずに不起訴となった場合もあります。
そのため、すべての事件について、補償することは相当ではないことから、『罪を犯さなかったことが明白である』という条件を付しているです。
今回の場合、報道によると、別人の女性が容疑者として浮上してるようです。真犯人の存在が明らかとなれば、逮捕された女子大生が罪を犯さなかったことが明白であると認められ、補償を受けられる可能性が高いと思われます」
【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
弁護士釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com