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新生HOWL BE QUIETに感じたピアノロックの高いポテンシャル WEAVER迎えた『Screen0』

2019年08月05日 08:51  リアルサウンド

リアルサウンド

HOWL BE QUIET(写真=山川哲矢)

 HOWL BE QUIETが約2年ぶりとなるアルバム『Andante』を7月31日にリリース。翌日のリリースパーティー的な立ち位置のライブ『Screen0』をワンマンにせず、WEAVERを迎えた2マンライブとして行った。ギターロックバンドが多勢を占めるシーンの中で、ピアノロックバンドとしての自らの個性を先を歩きながら戦ってきた先輩との対比で見せる効果もあったと思う。作品をリリースすることは当たり前のことじゃない。この日のHOWLは何度もそれを実感させた。


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 まず先攻を務めたWEAVERが登場した時点で、2バンドの対バンを喜ぶファンの多さが歓声の大きさで理解できた。ピアノポップバンドを好む一定層のリスナーがいるという事実だろう。今年でメジャーデビュー10周年を迎えるWEAVERが、ギターロック全盛の10年代のバンドシーンで戦ってきた実感は、HOWL BE QUIETが2年の空白期間を乗り越え、いまこうしてニューアルバムをリリースし、ステージに立っていることの重みを理解するには十分だったはずだ。


 今回の『Screen0』の開催に際して、竹縄航太は「バンドはギターだけじゃない」とコメントしていた。少年時代に一旦離れたピアノだったが、男性ピアノ&ボーカルのかっこよさに魅了されてHOWL BE QUIETを始め、ピアノ&ボーカルでバンドのフロントに立ち、しかもWEAVERと2マンをするなんて10年前の自分は信じるだろうか? とも綴っていた。メジャーデビューのタイミングで音楽性の振り幅に制限を設けないという意味での「アイドルを目指す」発言や、実際にピアノポップをはじめ、ヒップホップもEDMも消化した幅広い表現を標榜していたことそのものはユニークな発想だし、今もステレオタイプのロックバンドのカテゴライズにはまらないが、存続の危機を経て、現在はいい意味で策を練らず、竹縄航太というソングライターの素が垣間見える状態になったと思う。


 前置きが長くなったが、HOWL BE QUIETの新作を携えた初のライブという記念すべき位置であると同時に、日本のピアノロックバンドの現在地を知る上でも格好の2マンだった。先攻のWEAVERは目下、10月のメジャデビュー10周年記念日に向けて、オリジナルの最新作『流星コーリング』のツアー中だ。そんなタイミングで、彼らがHOWL BE QUIETとの2マンで組んだセットリストはロンドン留学以前と以降、そして最新作から「最後の夜と流星」も盛り込んだヒストリーを10曲50分に凝縮した内容。杉本雄治(Vo/Pf)の書く洋楽邦楽を超えたグッドメロディとたくましさを増した誠実な声、物語音楽の基軸を司る河邉徹(Dr/Cho)の歌詞、6弦ベースで楽曲のメロディアスな部分や和声の重要な響きを担う奥野翔太(Ba/Cho)。リズム隊も「歌」を彩るアレンジという意味で、彼らの楽器の解釈はますます柔軟になっていた。ピアノ&ボーカル、ベース、ドラムでいかに映像喚起力の高い音像を編み上げるか。テクニック的にはポストロックバンド並みに複雑なことも行いながら、美しさや熱さに浸れるーー積み上げてきた経験のなせる技だ。


 そしてこれは両バンド共通していたことなのだが、ライブPAのバランスがよく、音圧や音量で圧倒するのではなく、どの楽器のメロディラインやフレージングにも耳を傾けたくなるアウトプットだったことを記しておこう。


 ぐっと凝縮した50分でリリースパーティーにエネルギーを注ぎ込んだWEAVERの意気を受け取って、HOWLのオープナーは恋愛感情のかなり細かいところに踏み込んだ印象の前作『Mr. HOLIC』の中から、比較的カラッとした「ギブアンドテイク」でスタート。竹縄の甘さを含んだ声質はやはり武器だ。そして初めて松本拓郎(Ba)のプレイを生で見たのだが、10代からスタジオミュージシャンとして様々な現場でプレイヤーとして活躍してきた彼のベースはメロディアスなフレージングで、アッパーな曲にもしなやかさを生み、岩野亨(Dr)のドラミングと相乗効果で、空間を移動するようなリズムが生まれていた。


 新作『Andante』の中で竹縄がピアノを弾かず、ライブではアコースティックギターを弾いた「Reversi」は全員のプレイヤビリティとアレンジの面白さが際立つ。黒木健志(Gt)の小気味いいリフ、それに呼応するような松本のフレーズ、アフリカンビートを経て、同じ刻みのリフがマイナーコードからメジャーコードに転換するエンディングはライブでも見事に伝わった。同期で流れるストリングスも控えめに、淡々と積み重ねていく曲の構成にピアノリフが必然的にハマり、真正面から王道をモノにした「fantasia」でも、黒木のUK直系なアルペジオのサウンド、生ベースでありつつエレクトロニックな印象すら覚える松本のバウンシーで低音が気持ちいいベースなど、もはやこれは新しいバンドだ。


 また、この4人で鳴らすメジャーデビュー曲「MONSTER WORLD」は縦のビートというよりしなるようなグルーヴが感じられる。デビュー当時のナンバーが続き、生音EDM的な「レジスタンス」もグッとタフになった印象で黒木がギターでアイリッシュ調のソロ、そして何より今、〈つまずいても抗って 諦めてなんかやんねぇぞ ここから また 歌えるんだ〉という歌詞は以前と違う温度感で響く。そして新作の制作が現実味を帯びた時点で唯一存在していたという「ヌレギヌ」。リフレインする〈君のせいだからね〉のメロディのハマりの良さ、思わずシンガロングしたくなるコーラス。さらに、本編ラストはメランコリーを含んだ夜明け前のようなメロディが印象的なピアノから始まる「Dream End」。恋愛の複雑な感情をリアルな歌として届けることができるのも竹縄の作詞家としての無二の魅力だが、新作のラストナンバーでもあるこの曲では、“人として腹をくくらなければ”という覚悟に揺さぶられる。アレンジの緩急も潔く、竹縄のピアノがフィーチャーされるヴァースと、黒木のソロが映える部分の明快な分離もいい。竹縄のエモーションが歌とピアノにダイレクトに反映しつつ、大げさにならないのだ。カタルシスを生むいいメロディに本音の言葉とエモーションを内包した声。これはいまのHOWLの心臓部と言えるだろう。


 アンコールで竹縄と杉本が連弾でHOWLの「サネカズラ」とWEAVERの「僕らの永遠~何度生まれ変わっても、手を繋ぎたいだけの愛だから~」を披露したのはピアノ&ボーカルならではの息の合い方だったし、様々な世代が笑顔になれるシーンだったと思う。


 ライブにはもちろん熱さがあるが、歌とメロディがここまですんなり入ってくるバンド形態としてのピアノロックにはまだまだ高いポテンシャルがある。HOWL BE QUIETが新作を携えて本格的に活動を軌道に乗せたと同時に、このシーン自体の動向もますます楽しみになる2マンだった。(石角友香)