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『ノーサイド・ゲーム』停滞した状況を打破する大泉洋の視点 キーワードは「誇り」

2019年08月05日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)第4話が8月4日に放送された。


参考:全員がラグビー経験者! 日曜の夜を熱くする『ノーサイド・ゲーム』アストロズ俳優


 リーグ戦が開幕し、スタートダッシュに成功したアストロズ。ホームでは動員数を伸ばしているものの、慢性的な赤字体質と選手層の薄さがチームを直撃する。アストロズ存続に反対するトキワ自動車常務の滝川(上川隆也)は、カザマ商事の買収によって社内での影響力を強める。一方で、買収の話を聞きつけた近隣住民がカザマ商事の出資するゴルフ場建設に反対して工場に押し寄せる。また、アストロズ最大のライバル、サイクロンズも動き出した。


 次々と襲いかかる難題に暗中模索の日々を送る君嶋(大泉洋)。アストロズの一人ひとりもまた、それぞれの課題にぶつかっていた。社会人ラグビーを舞台とする群像劇『ノーサイド・ゲーム』第4話では、チームを支えるアナリストの佐倉多英(笹本玲奈)と中盤のSH(スクラムハーフ)・佐々一(林家たま平)にスポットライトが当てられた。


 多英の夢はキャプテンだった父親の遺志を継いで、アストロズの黄金期をふたたび築くこと。最新のAIを導入する相手チーム対策のため、多英は綿密な分析を進める。仕事のミスで取引をキャンセルされてしまった佐々も、多英とともに戦術分析に取り組む。そんな中で、新たに導入した戦術練習中に日本代表の里村亮太(佳久創)が怪我をしてしまう。仕事だけでなく、ラグビーでもチームメイトに迷惑をかけてしまった佐々は、責任を取ろうと君嶋に退部届を出したのだが……。


 ギリギリの予算しかなく選手層が薄い状況で選手に疲労が蓄積し、そのことで仕事にミスが生じる。小事が大事につながる悪循環を未然に防ぎ、停滞した状況でチームを前に進める君嶋のマネジメントは、妻・真希(松たか子)の言葉にヒントがあった。成績が落ちたので塾を変えたいという長男の博人(市川右近)に、真希は「塾のせいじゃなくて、原因は自分にあるの。今のままでもいくらでもやりようがあるから」と話す。


 自ら招いたピンチなら自分たちで摘み取るしかない。そうわかっていても、追い込まれた状況では、往々にして人脈や手法などの外部的要因に解決策を求めがちである。内も外も敵ばかりで、チームの強化費もままならない君嶋が選んだのは、足元を見つめるという発想の転換だった。君嶋の「会社や組織のせいにすることは簡単だが、大事なことはいま自分たちに何ができるかだ」という言葉を、いっぱしの美辞麗句で終わらせないために、きめ細かくエピソードを積み上げる演出が強く印象に残った。


 ひとつずつ試練を乗り越えることで、本当の意味でチームになっていくアストロズ。スポーツと企業経営の共通点は多いが、何よりもそれが組織であることが重要ではないだろうか。第4話は、華やかなリーグ戦の裏側にある一人ひとりの葛藤と成長にドラマが宿ることを示していた。その結果、浮上してきたのが「誇り」というキーワード。基本を見直すこと、自分の役割に誇りを持つこと。企業スポーツの根幹にあるスピリットを『ノーサイド・ゲーム』は鮮やかに摘出してみせる。


 第4話でも君嶋は最高のモチベーターだった。その言葉は、1人に向かうときもチーム全員に向けるときもまったく変わらない。夫を突き放し、とことん落ち込ませて、さりげなくヒントを与える真希のファインプレーも光っていた。最後に君嶋から佐々への言葉を引用する。


 「ひとつひとつなんだよ。チケット1枚1枚、ワンプレーワンプレー。それをひたむきに積み重ねることできっと逆転の目はあるはずだ」


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。