新たな真夏の長距離戦として2度目の開催を迎えた2019年スーパーGT第5戦富士500マイルは、セーフティカー導入タイミングも味方につけたWAKO'S 4CR LC500の大嶋和也/山下健太組が、前回の第4戦タイに続く連勝の結果となった。ポイントリーダーだったふたりは長距離ラウンドのボーナスポイントも加算し、GT500のポイントランキングのリードを大きく拡大する結果となった。
第5戦富士のレースウイークは全国的な猛暑が続き、土曜予選日も北海道から沖縄まで全国的な快晴に。観測地の800カ所以上で気温30度以上の真夏日、160カ所で35度越えの猛暑日となり、静岡県内で全国最高気温を記録。その酷暑は日曜決勝日も続き、熱中症への厳重警戒と対策を呼びかける状況のなか、富士スピードウェイには3万8千人のファンが詰めかけ、サーキットにはさらなる熱気が加わった。
このラウンドからシーズン2基目の新エンジンを搭載したレクサス、ホンダ陣営に対し、アップデートを遅らせる決断を下したニッサン陣営は、23号車MOTUL AUTECH GT-R、3号車CRAFTSPORT MOTUL GT-Rとミシュランタイヤを履く2台がフロントロウを独占。
とくに49kgのウエイトハンデ(WH)を搭載しながら、今季3度目のポールポジションにつけた23号車は「まずはシーズン初優勝が欲しい(ロニー・クインタレッリ)」、「ここはポイントが大きいので選手権を戦う上でもぜひ獲りたい(松田次生)」と、両ドライバーとも500マイル、約800km先のトップチェッカーを見据えて意気込む。
対して、2列目に並ぶ19号車WedsSport ADVAN LC500以下3台のレクサス勢は、燃料リストリクター1ランクダウンながらセカンドロウ4番手獲得の38号車ZENT CERUMO LC500、前戦の同士討ちから雪辱を期す36号車au TOM'S LC500がGT-Rにどこまで喰らい付くか。そして7番手Modulo Epson NSX-GTが前方を追いかけ、予選フロントロウの可能性をトラブルからのクラッシュで失った8番手KEIHIN NSX-GTは、ピットスタートからどこまで巻き返せるかがファーストスティントの焦点となった。
決勝を前にしたウォームアップ走行で赤旗中断が発生したため、スタート手順のスケジュールがすべて10分ディレイとなった177周レースは、13時40分にパレードラップへ。気温31度、路面温度も58度まで上昇した正午のウォームアップ時点からさらに路面温度が上昇し、60度を超えてくるコンディションに。
そのオープニングから勢いを見せたのは64号車Modulo Epson NSX-GTの牧野任祐で、早々に6番手のリアライズコーポレーション ADVAN GT-Rを仕留めると、一時ポジションを入れ替えていた19号車WedsSport 、38号車ZENTの2台を4周目に入るホームストレートから1コーナーでまとめてオーバーテイクし、一気に3番手まで浮上してみせる。
GT300の隊列と最初の遭遇となった5周目以降、中団ではトップ10圏内を伺っていた12号車のカルソニック IMPUL GT-Rが、ダンロップコーナーでGT300マシンのプッシングを受けスピン。14番手までポジションを下げる苦しい展開となってしまう。
さらに前方では10周を目前にヨコハマタイヤを履く19号車WedsSportの坪井翔が意地を見せ、富士最速男・立川祐路、64号車牧野を抜き返して予選ポジションを奪還。2台のGT-Rを追う態勢に入っていく。
しかし先頭のミシュランタイヤ勢2台は安定して1分32秒台のラップを刻み、4番手以下を引き離しにかかると、19周目に16号車MOTUL MUGEN NSX-GTがGT500クラス最初のピットへ。4回義務付けとなる初回のドライバー交代を終えて、中嶋大祐がコース復帰する。
その同じラップで1号車RAYBRIG NSX-GTをパスしたWAKO'Sの山下健太は、続く23周目にも24号車リアライズのヤン・マーデンボローを仕留め、2ランクダウンのマシンでジリジリと上位へと進出してくる。
26周目には3番手を走行中だった19号車WedsSportが早めのピットへと向かい、坪井のままドライバー交代せずに41.8秒の静止時間でピットアウト。その頃、同じヨコハマタイヤを履く24号車リアライズは、セクター3で1号車RAYBRIG、39号車DENSO KOBELCO SARD LC500、37号車KeePer TOM'S LC500と立て続けに3台にかわされ、グリップダウンに苦しみ10番手へと後退。続く29周目にはファーストスティントの敢闘賞、64号車Modulo牧野がピットへと向かい、44.4秒の静止時間でナレイン・カーティケヤンへとバトンタッチ。
ルーティンのピットウインドウとなる35周目が近づくと、32周目に38号車ZENTがピットへと向かい、43.5秒でピットアウト。8号車ARTA NSX-GT、24号車リアライズGT-Rらも続々とピットへと向かっていく。そして35周目で首位MOTUL GT-Rがドライバー交代へと向かい、19号車WedsSportの背後で松田次生がコースイン。39周目に全車のルーティンが終わったところで、アンダーカットに成功した19号車WedsSportが首位浮上、3番手にも早々のピット作業を済ませている16号車MOTUL NSX-GTが続きヨコハマタイヤ勢が1-3の体制となるも、16号車、ドライバー交代を行っていない19号車ともに4回義務の回数より多いピット回数が確定的となる。
その予測より早く、42周目には4番手ZENTの石浦宏明、5番手CRAFTSPORTの平手晃平が相次いで16号車をパッシング。さらに平手は石浦も抜き去り、23号車松田次生の後方までカムバックする。そして48周目には直接のライバルとはならない19号車をかわしたMOTUL GT-Rがトップランを奪還し、自らのラップペースを維持してさらにギャップを広げる態勢を整えた。
その19号車は56周目にピットへと向かい、国本雄資にドライバー交代して初の義務ピット消化となると、定評ある作業時間の速さで42.6秒の滞留でマシンを送り出す。これで見た目上も23号車MOTUL GT-R、3号車のCRAFTSPORTSのGT-Rがワン・ツーに返り咲き、ZENT、auのLC500、そして奮闘の6号車WAKO'S大嶋和也のトップ5が形成される。
30周時点で気温33度、路面温度44度だったトラック上は、60周を過ぎても34度、43度とほぼ横ばい。15時30分を前にわずかに陽が傾き始めた62周目、ダンロップコーナーのブレーキングでオーバーシュートした23号車は、切り返しで大きく失速。その隙を突き、着々とギャップを詰めてきていた3号車CRAFTSPORTS平手に先行を許すことになり、次生はまさかの2番手に後退。ルーティンまで数周を残したところで厳しい状況に陥ってしまう。
すると3番手のZENTが先に動き、70周目にピットへ。50.8秒で"富士マイスター"立川祐路に再びバトンをわたすと、そのアウトラップで悲劇が起こる。
100Rを旋回中だったZENTはまったく曲がるそぶりを見せず、速度を落とさないままコースアウト。広いランオフエリアを突っ切り、バリアに正面からクラッシュしてしまったのだ。立川はすぐさまFROに連れ添われ無事にマシンから降り歩いて退避したものの、100Rでの右フロント・ホイールナット脱落というアクシデントで戦列を去ることになってしまう。
これでセーフティカー(SC)導入の可能性を危惧したライバル勢は予定を早めて軒並みピットイン。遅れた74周目にSCがコールされ、レースは一時中断となる。
76ラップ終了時点でホームストレート上でのリグループが行われると、79周目終わりでレースはリスタート。この時点で首位だったKeePer TOM'S LC500、2番手KEIHIN NSX-GTはルーティンが迫っており17号車はそのままピットへ。すると2番手以下の攻防が激化。
1コーナーではMOTUL GT-Rが19号車をかわすと、ダンロップコーナーまでに先頭のKeePerを捕まえ先頭へ。その背後、MOTUL GT-Rを追っていたCRAFTSPORTのマコヴィッキが19号車にヒットされスピンオフ。隊列最後尾にまで下がってしまう。
すると続く81周目には同じダンロップコーナーで今度はDENSOのヘイキ・コバライネンがブレーキングで行き場を失い19号車に追突。コースを外れてポジションを落とすと、右フロントカウルを破損したままホームストレートを疾走したマシンからは白煙が上がり、コースを1周したのちピットでレースを終えることに。
そんなアクシデントを尻目に、表彰台圏内に上がったauとWAKO'Sの2台は、ここで自己ベストをマークする踏ん張りを見せ、首位のMOTUL GT-Rを3秒差で追走していく。
時刻は16時を回り、周回数も90を超えたところで路面温度は40度を切り、38度まで低下。後方からはアクシデントからカムバックしたマコヴィッキが次々と先行車をかわし、6番手にまで浮上。その前方を行くトップ5も、軒並み1分32秒台のラップタイムを回復してくる。
すると100周を過ぎ、首位MOTUL NSX-GTとのギャップを2秒まで縮めてきたレクサス艦隊にアクシデントが発生。3番手の山下健太が前を行く36号車にコンマ5秒差まで迫ると、102周目にGT300との絡みで中嶋一貴がGT300マシンと13コーナーで接触し、一貴の左フロントが大破。トーロッドまで折れたマシンはそのままガレージインすることに。
直後、3号車とのバトルでポジションを明け渡した5番手走行のリアライズから白煙が上がり、ピットロードエントリーのコース側でマシンを止めると、さらにマシンの火災が進行。消火活動が困難な位置ということもあり、107周目時点でこのレース2度目のSC導入の判断が下される。
この瞬間、時同じくして2番手に上がっていた6号車WAKO'Sの山下健太はピットロードへと飛び込み、ピットレーンクローズとのタイミングが検証されたが、SCボード掲示前との判断でお咎めなし。これにより6号車は上位で1台だけルーティンのピットストップを1回多く終えた状態で、23号車、1号車、3号車、12号車に次いで5番手でコースへと戻ることになった。
113周目突入からレースが再開されると、その先頭集団4台のうちステイアウトを選択した1号車RAYBRIG山本尚貴を除いて全車がピットロードへ。54秒1でピットアウトした23号車以下GT-Rの3台に続き、翌ラップの114周目にはそのRAYBRIGも給油とドライバー交代に向かい、2番手でコース復帰する頃にはWAKO'Sは1分16秒の彼方と、ほぼ1ラップ分のリードを手にすることに。
118周目にはアクシデントからの挽回で再び表彰台を掴まんとしていたCRAFTSPORTがマシントラブルでレースを終え、コース上のGT500車両は10台に。124周目にまだ2回のドライバー交代義務が残る3番手WedsSportがピットへ向かうと、MOTUL GT-Rが3番手へとポジションアップする。
17時30分を過ぎコース上には夕日が差す頃になっても路面温度は38度を維持するなか、2番手以下はこう着状態となり、132周目にはARTAがカルソニック、KeePerにかわされ7番手に後退するなど、スティント終盤に向けタイヤライフの差が顕著に出始める。
最初のストップをミニマムにし、他車と異なる戦略を採用していたMOTUL NSX-GTが139周目にピットへ向かい、ドライバー後退を伴うピットイン回数義務を果たすと、KeePer、ARTAも翌周、翌々周に義務ピットを終え、最終スティントへと入っていく。
一方、はるか先頭のWAKO'Sを追っていた2番手RAYBRIGのジェンソン・バトンも1分差を切ることができぬまま、6号車大嶋和也が143周目にピットへ。続く144周目に3番手走行中だったMOTUL GT-Rがロニー・クインタレッリにチェンジ。それに反応し、続く周回でRAYBRIGも山本尚貴に最後の勝負を託す。
しかしこのピット作業で軍配が上がったのはニスモ陣営の方で、ピットイン前に6秒台だった差は146周終了で2.188秒にまで短縮。続く周回にはRAYBRIGに0.325秒差まで迫り、コース上で最後の2位表彰台争いが繰り広げられる。
激しくテールを振りながら、NSX-GTのテールに張り付いたまま周回を続けるクインタレッリだが、150周を過ぎても山本尚貴の老獪なディフェンスラインを前に攻略には至らず。18時を回ってレース最大延長時間の18時40分まで続くかと思われたハイテンションバトルは、路面温度が28度と一気に10度ほど下がったことも影響したか23号車MOTUL GT-Rが徐々にバックオフ。それを見て、156周目にはRAYBRIG山本が1分31秒672と渾身の自己ベスト更新で逃げを打ち、これで実質勝負あり。
規定周回数の177ラップにはわずかに届かず、175周で18時40分に到達しトップチェッカー。前戦タイの勝者のWAKO'Sがシリーズでも2014年以来の連勝を決め、ポイントランキング大きくリードすることに。RAYBRIGが第2戦富士以来の表彰台となる2位に入り、必勝を期したMOTUL GT-Rが3位表彰台を獲得。ポイントスタンディング上ではWAKO'Sが60点とし、ランキング2位の37号車に16点の大差をつける結果となった。
「あのピットがキーだったと思いますけど、あの時点で後ろとのリードが決定的になりました」と山下が語れば、大嶋和也も「連覇はまったく考えてもいなかったけど、(ウエイトハンデで2ランクダウンの)2基目のニューエンジンも速かったし、タイヤは最後まで全然タレなかった」と自身も驚きの表情。ピット戦略を含め快心の勝利を飾った脇阪寿一監督も「タイで勝てるチームになり、この連勝で強いチームになれた」と、チーム全体の成長を口にした。
シリーズ後半戦に向け大量リードを築いたWAKO'S LC500に対し、続くオートポリス、SUGOのテクニカルコース、そして最終戦もてぎとニッサン、ホンダ陣営がどこまで巻き返せるか。誰も予想ができなかった今季のGT500の展開だけに、残り3戦も予想が難しい。