2019年08月04日 10:31 弁護士ドットコム
「結婚前にAVに出演していた妻と離婚したい」という男性が、弁護士ドットコムに相談を寄せています。
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相談者が妻のAV出演の過去を知ったのは、籍を入れてから3カ月後。このことが原因で妻への愛情はなくなってしまったといいます。しかし、すでに妻が妊娠していたこともあり、離婚という道を選ばなかったようです。
ところが、1年後に夫婦喧嘩をしてしまい、妻が家出。夫婦仲も悪くなり、離婚に向けて話し合いをしたこともあるようです。しかし、妻は「AV出演はこちらも被害者」と主張。相談者の両親は「AV出演の事実があるならば結婚なんて認めなかった、相手の家を訴えてやりたい」と言っているようです。
その後、調停を申し立てたものの、妻が「離婚したくない」と言い始め、不成立に。相談者は裁判へと進むことを検討しているようです。
相談者のように、調停が不成立となった場合には、裁判へと進むことになります。この場合は、法律(民法770条1項)が定める離婚理由が必要となります。
民法770条が定める離婚事由は、(1)不貞行為 (2)悪意の遺棄 (3)生死が3年以上、明らかでないとき (4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき (5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、の5つです。
今回のケースは、(1)から(4)にはあたらないでしょう。しかし、「(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と判断されれば、離婚が認められる場合があります。
ただし、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるか否かの判断はケースバイケースです。判断にあたり、裁判所はさまざまな事情を総合考慮します。
そして、夫婦関係が破綻し、回復が困難であり、これ以上は結婚生活を続けていくことが難しいと判断された場合に、離婚が認められることになります。
今回のケースのように、妻が過去にAV出演していたことが原因で夫婦関係が破綻し、修復の見込みがないと判断されれば、離婚が認められる可能性はあります。また、過去のAV出演歴は「婚姻関係を継続しがたい重大な事由に当たり、離婚事由となり得る場合がある」とした東京地方裁判所の裁判例(平成24年1月25日)もあります。
では、相談者は、AV出演歴を隠していたことについて、妻に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
慰謝料は、精神的な苦痛に対する損害賠償のことをいいます。ただし、慰謝料が認められるには、相談者自身が精神的な苦痛を感じているだけでは慰謝料は認められず、妻の行為が「不法行為」であると認められなければなりません。
上記の東京地方裁判所の裁判例は、AV出演歴について「婚姻前に告知しなかったこと自体が不法行為に当たるとまでは認められない」と示しています。ただし、婚姻後もAVに出演していた場合は「不法行為」が認められるでしょう。
【監修協力】小田 紗織(おだ・さおり)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/