レッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンが、初ポールポジションを獲得した。ホンダにとっては2006年第3戦オーストラリアGPでのジェンソン・バトン以来、13年ぶりの快挙である。
しかし、それを成し遂げたあとも、田辺豊治テクニカルディレクターはいつものように感情を大きく表に出すことなく、「ドライバーと、クルマをしっかり仕上げてくれたチームのおかげです」と、淡々と語るだけだ。とはいえそれに対するホンダ製パワーユニット(PU/エンジン)の貢献が少ないはずはなく、そこかしこに技術者としての自負も窺えるのだった。
――今日はポール獲得の予感があったのでは?
田辺豊治テクニカルディレクター(以下、田辺TD):力強いフェルスタッペンの走りと、クルマも初日からしっかり仕上がったことで、うまく行ったのだと思います。
――Q3の1回目で暫定ポールを取った時点で、これは取れそうだと思いましたか?
田辺TD:いやいや、メルセデスもフェラーリも速いですから、それはわからないと思っていました。
――Q3の1回目のあと、フェルスタッペンが若干のデプロイ(デプロイメント/走行しながら回生されたエネルギーを使用すること)切れの症状を伝えていました。
田辺TD:どこでエネルギーを使うかバランスの問題ですので、大きな損失ではない。より適切な形に回生エネルギーを振り分けて、2回目のアタックに出て行って、うまく行きました。
――あのポールタイムは、予想していましたか?
田辺TD:コースレコードですよね。予想していたかといえば、あのタイムは予想外でした。
――ピエール・ガスリーは、ちょっとタイムがまとまらなかったです。
田辺TD:そうですね。クルマのバランスが今ひとつで、タイムロスした感じです。
――トロロッソの12番手(アレクサンダー・アルボン)、13番手(ダニール・クビアト)はどうでしょう。アルボン自身は、初日のクラッシュを思えば、十分満足できると言っていました。
田辺TD:初日うまく行かなかったことを思えば、まとまって来てはいる。それでもQ3に行けなかったのは、悔しかったですね。ただレースではふたりともいい走りをしてくれていますし、抜くのが難しいコースではありますが、うまく戦ってほしいですね。
――スタートに関して言うと、ポールポジションからターン1までは約500m。自信はありますか?
田辺TD:このところ、少しスタートで失敗することが多かった。いろいろ理由はありますが、見直してきましたので大丈夫かと。普通にきちんと、スタートを切りたいですね。
――過去4戦で最も多くのポイントを獲得しているのは、フェルスタッペンです。タイトル争いにも、今後十分に絡めるのではないでしょうか?
田辺TD:近づいてはいますね。しかしそんなことよりも、暑いオーストリア、雨のドイツで勝ったあと、ここでまた勝ちたい。一歩一歩前に進むことだけを、考えています。
――ここまで2勝して、しかしポールポジションは取れていなかった。予選順位の向上が、ホンダとしてもひとつの課題でしたか?
田辺TD:はい。レースは結果がすべてというのは確かにそうなんですが、決勝レース自体は純粋な競争力以外のいろんな要素も絡んでくる。
一方で一発の速さにおいてずっとメルセデス、フェラーリに先を越されてきた中で、ポールはいつか獲得したいというのはありましたね。
でも今年初めからのギャップの大きさを見ていると、そう簡単なものじゃないとも思っていました。それが今回、コース特性とドライバー、クルマのコンビネーションで、見事達成できた。それは大きな励みですね。
――確かにマシンパッケージ全体のコンビネーションだと思うんですが、一発の速さというのはパワーユニットの貢献度合がより大きいのでは?
田辺TD:どうでしょう?パワーサーキットで負けると、パワーがないからだと言われ、低速コースで勝ってもあまり褒めてもらえないですからね(笑)。
――フェルスタッペンは予選後、スロットルラグの問題もまったくなく、ドライバビリティも素晴らしかったと言っていました。
田辺TD:シルバーストンでは、ラグが出なければポールが獲れたと言われた。そこから対応を重ねてきて、テストを繰り返して、その成果が今回出たということでしょうね。
――今回の予選では、今まで以上にアグレッシブなモードを使っていますか?
田辺TD:それは、ないですね。地道にコース特性に合わせただけです。
――とはいえQ1からQ3にかけて、そしてQ3だけでも1回目と2回目、それぞれのタイムの伸びが非常に顕著でした。そこはパワーユニットの進化と捉えていいですか?
田辺TD:あくまでパッケージのおかげです。
――デプロイ切れは、フェルスタッペンの乗り方が変わった影響でしょうか。
田辺TD:乗り方、スロットルの踏み方が変わったんだと思います。その後、2回目のアタックに向けて、対応しました。
――2回目のアタックまで5分程度しかなかったんですが、かなり慌ただしい作業でしたか?
田辺TD:さくら(HRD Sakura/栃木県の本田技術研究所)とミルトンキーンズ、現場の3者で、同時進行的に対応しました。マックスが無線でそんなこと言うから、こんなに皆さんに訊かれるわけですが(笑)、でもドライバーは最高のセンサーですよ。
彼らのフィードバックが、最後は何よりも頼りになります。音、振動、加速感。彼らの感覚に勝るものはない。
――ハンガリーでのポールは、狙っていましたか?
田辺TD:いつも狙ってるとは言いがたいですが、できるだけ上に行きたいとはいつも思っています。当たり前の話ですが。ここは抜きにくいサーキットですし、他のサーキット以上にいいところに行きたいという思いはありました。
レッドブルは初日からいい感触のことが多く、今週末もそうだったんですが、だからポールとか、そこまで楽観的な思いはありませんでした。
――ポールを取った直後の、ガレージ内の雰囲気はどうでしょう?
田辺TD:みんな、大騒ぎでした。
――田辺さん自身は叫んだりせず?
田辺TD:しませんでした(笑)。
――明日のレースについてお願いします。
田辺TD:少なくともパワーユニットは、準備万端です。