ポールポジションを狙っていたHOPPY 86 MCが、アタック2周目でブレーキ抜けが起きてしまい、惜しくも2番手。しかし、8月3日に行われたスーパーGT第5戦富士の公式予選で1分37秒316というタイムを記録し自身初、そしてチーム初のポールポジションをもたらした埼玉トヨペットGB マークX MCの吉田広樹の値千金の“結果”は、決して色あせることはない。これまで多くの苦労を経てきた吉田がピットに戻る際、あちこちのピットからかかった祝福の声がそれを証明しているだろう。
吉田は1983年生まれ。服部尚貴率いるTeam NAOKI(石浦宏明が先輩格)に加わり、2004年に四輪デビューを果たし、2008年にはスーパー耐久ST-1で当時最強を誇っていたPETRONAS SYNTIUM TEAMに抜擢されチャンピオンを獲得したものの、それ以降はジュニアフォーミュラでの戦いを続けていた。
スーパーGTデビューは2011年だが、それも当初は年に1~2回のスポット参戦。実は吉田は、スーパーGTのセーフティカーのドライバーを務めていたこともある。なかなか思うように結果が残せず、ようやくGT300にフル参戦したのは2015年だった。
“イジられキャラ”でもあるが、逆に言えば好青年。だからこそ、この業界で多くの支援を得てキャリアを繋いできた。そんな吉田がチャンスを掴んだのは、TOMEI SPORTSに加わり、ニッサンGT-RニスモGT3を駆り速さをみせてからだった。
Gulf Racing with PACIFICやGAINERを経て、昨年は初開催の鈴鹿10時間でもポールを獲得。今季はGT300マザーシャシーのマークX MC、そしてブリヂストンというパッケージを得た埼玉トヨペットGreen Braveに加入した。
さらなるチャンスの年だったが、まずは雨の第1戦岡山で表彰台を獲得するものの、それ以降は苦戦。暗い表情を浮かべているときもあった。
ただ、今回こうして結果を残すことができた。たかが予選ポールポジションかもしれないが、彼にとっては大きなポールと言えるだろう。
■Q2の吉田に繋いだ脇阪薫一の技
実は今回の吉田のポール獲得の裏には、予選Q1での脇阪薫一のベテランの技があった。Q1で脇阪がドライブしている際、なんとコクピットのディスプレイが点かなくなるトラブルがあったのだ。「自分がそれで走れと言われたら、本当に難しいシチュエーション(吉田)」という状況だったものの、脇阪はエンジンサウンドを頼りにシフトアップを行い、無線や残り時間が分からないなかで、ギリギリ16番手をキープし、Q2の吉田に繋いでみせたのだ。
Q1からQ2までの間に、チームは電源のラインが切れていることを発見し、早急に対応した。これで吉田は万全の状態でQ2に臨み、先述のタイムを出すことができたのだった。脇阪、そしてチームの頑張りがあったからこその吉田のポールと言える。
「チームが苦手な富士で、少しでも合うように細かいところを詰めてくれたのがポールポジションという結果に繋がったと思います」と吉田は予選後の記者会見で語った。
「スーパーGTは何年も乗っていますし、去年もポールポジションに届くかな……という時はありましたが、獲れなかった。ポールポジションを獲る難しさは自分が痛感してましたし、いろいろなサーキットの相性や気温、路温など、なかなか合わさらないとチャンスが来なかったんです。今回、Q1を薫一さんが通してくれたのが本当にすごいし、チームもしっかり直してくれたので、その点に感謝しています」
「鈴鹿、タイとQ1を任されて失敗していたので、今回ポールポジションを獲れたことは嬉しいですし、狙ってはいたものの、まずはミスをせず、みんなが繋いでくれたなかでポテンシャルを発揮するべく走りました。結果は後からついてきたものですが、自分が任されたことをこなせて、安心している方が大きいですね」
■ポールポジションという結果が生む自信
今回吉田が成し遂げたポールポジションという結果は、埼玉トヨペットGreen Braveにとっても、今季目指していた目標のひとつだったという。2017年にスーパーGTに参入して以降、奮闘をみせてきたディーラーチームにとっては大きな勲章だ。
「嬉しいですよ。スーパーGTに参戦してから、ポールポジションはいつかは獲りたいと思っていましたし、平沼貴之オーナーが今年に入って、決勝レース前のポールポジションの演出を観る度に『いつかグリッドの真ん中を、マークXが走る日を観たいね』と言っていた。今年の僕の目標のひとつだったので、本当に嬉しいです」というのは、青柳浩監督。
「吉田選手は速いですが、チームに加わってからもいいところでトラブルが出たりしていた。いいかたちで結果が残せてこなかったので、本人もこうして結果が残せたので良かったのではないのでしょうか」
もちろん大事なのは決勝レースでの結果だが、純粋に速さを示すことができる予選はドライバーとしても重要なものだ。今回、大きな喜びはみせなかったが、吉田にとっては大きな自信に繋がったはずだ。