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『凪のお暇』号泣する高橋一生は愛おしい 一方で、自分の軸で幸せを選んだ凪に迫る“恐怖”も

2019年08月03日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『凪のお暇』(c)TBS

 「ちゃんとしてるの?」


参考:山田涼介、中村倫也、宮沢氷魚 人生に疲れたヒロインを優しく癒やす“ビューネくん系男子”に注目!


 金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)第3話。人生をリセットするため、しばしお暇している凪(黒木華)の元に、帯広に住む母(片平なぎさ)からの便りが届く。引っ越し、スマホを解約し、連絡がつかない娘にハガキを出した母。そこには“土日に東京に伺います“の文字が。凪は慌てて携帯電話を契約し、現実を取り繕って来訪を阻止しようとするのだが、母の口から発せられた言葉に思わず絶句してしまう。それが冒頭のセリフだ。


 ちゃんとした髪型、ちゃんとした仕事、ちゃんとした住まい、ちゃんとした恋人……。何がちゃんとしていて、何がちゃんとしていないのか。そのボーダーラインは、母の中にある。自分とは異なる視点からの幸せの指標。もちろん自分と他者と、指標が一致すれば話は早い。親と子、同じ感覚で生きていられれば、先人のアドバイスは何よりも心強いだろう。だが、その指標が異なっていたら? この言葉は、彼女の人生を強く縛り付けることになる。


 自分が幸せの指標は、自分の中にある。文字にすると、ごくごく当たり前のように感じるが、多くの情報を前にすると簡単に揺らいでしまうのが、人間の厄介なところ。きっと、凪は幼いころから母の「ちゃんとして」パンチを浴び、サンドバッグ状態になっていたのだろう。空気を読んで、相手のパンチを受け続けることこそ、ちゃんとしているとさえ感じるほどに。


 今の凪は、家財道具やスマホと一緒に、自分を窮屈にしていた呪縛も捨ててみようと思ったのだ。母に「みっともない」と言われ続けたモジャモジャ頭こそが、解放の象徴。幸い、そのトレードマークを愛でてくれる人たちにも出会えた。少しずつ自分なりの軸を取り戻していると手応えを感じる日々。


 そうして育まれた自己肯定感が、婚活パーティーで再会した元同僚とも対峙するパワーになった。一方的なサンドバッグ状態の会話から脱し、負けじと思ったことを口にして拳を交わす。しかし、見事KOさせることに成功したものの、気分は晴れない。なぜなら「スペックで抱かれるなんて浅ましい」というストレートパンチが、ブーメランとなって自分に返ってきたからだ。自分こそ、恋人・我聞慎二(高橋一生)のことを、スペックでしか選んでいなかった、と。


 人は相手を攻めるとき、つい自分が突かれたら痛いところを狙ってしまうことがある。相手を打ちのめしたつもりで、自分のコンプレックスが顔を出し、かえって傷つくことも。攻撃は、同時に弱点を晒すことにもなるから、気をつけたほうがいい。慎二が、人生を変えようとする凪を攻めたのもそうだ。本当は誰よりも自分が、空気を読みすぎる性格に疲れているのだから。


 変わりたい女・凪と、変わってほしくない男・慎二は、すれ違い続ける。逃げるのをやめて、ちゃんと別れを告げに来た凪に対して、同僚の前でも手を引く勇気を持った慎二。「好きじゃなかった」と正直になる凪と、「もともと付き合ってた記憶ないけど」と強がる慎二。立ち上がって歩き出す凪と、テーブルに突っ伏して動けない慎二。


 そして、“その場の空気を読んで“ではなく、“その人といる空気がおいしい“という理由で、選んだ隣人の安良城ゴン(中村倫也)のもとへと向かった凪。ゴンも「おいで」と受け入れ、ふたりはついに肌を合わせる仲に。


 一方、駅に向いながら号泣する慎二。毎度、号泣する慎二を愛しく思うが、凪はその事実を知らない。人は、見ようとしたものしか見えないのだ。そして、凪が知らない真実がもう一つ。ゴンの仲間に声をかけられクラブに向かった慎二の目の前には、ゴン目当ての女性たちがあちらこちらに。そして、ゴンが「メンヘラ製造機」と呼ばれていることも明らかに。


 自分の心地いい方へ。自分なりの幸せを切り拓く重要なキーワードはコレだ。だが、それと同じくらいに大切なのが、何事にも執着しすぎないこと。誰かに言われたことではなく、自分で選んだものにこそ、人は手放すのを恐れる。初めて自分の軸で幸せ=ゴンといることを選んだ凪が、次回その怖さに直面しそうだ。


(文=佐藤結衣)