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『なつぞら』頑張れイッキュウさん! 中川大志が“器用”に示す“不器用さ”

2019年08月03日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『なつぞら』(写真提供=NHK)

 数々の好男子たちのなか、『なつぞら』(NHK総合)に遅れをとって姿を見せるかたちとなった中川大志。出演が知れていた時点で、彼がヒロイン・なつ(広瀬すず)の恋の相手として“ダークホース”的な存在だということは明らかであったが、ここにきて、完全なる名馬として走り出した。


 本作で中川が演じるのは、東洋動画の製作課に所属する若手演出家・坂場一久。東大の哲学科卒であり、弁の立つ頭脳明晰な青年だ。細かなこだわりが非常に強く、コミュニケーションを取るのが苦手なのが玉に瑕。しかし、アニメーションへの熱い想いは異常なもので、その理路整然とした物言いと冷徹な態度とでアニメーター陣との衝突は絶えないが、彼の不器用さと真っ直ぐさは愛嬌とも受け止められ、「イッキュウさん」の愛称でいまや親しまれている。


【写真】イッキュウに別れを告げられた時のなつ


 坂場は初登場時から特徴的なキャラクターではあったものの、他の好男子たちのインパクトの強さには負けている印象があった。だが、それはしょうがないことだろう。放送開始から2カ月以上を経ての彼の登場までに、私たちは個々のキャラクターに愛情を感じ始めてもいたし、なつの兄・照男(清原翔)と砂良(北乃きい)の結婚など、微笑ましいエピソードをいくつも目にしてきていた。坂場の登場以降も、幼馴染の天陽(吉沢亮)の結婚という仰天ニュースや、雪次郎(山田裕貴)の演劇への挑戦と挫折、なつの実妹・千遥(清原果耶)の登場など、驚きと涙なくしては観ていられないものばかりだったのだ。なつと共にここまで歩んできた私たちにとって、幼馴染や親類のエピソードに勝るものはなかなか生まれないだろう。演じる中川は、ヘタに前へ出ようとはせず、淡々とこれらを脇から支えていた印象があった。


 しかし、坂場はようやく“恋愛”という彼の行路を見つけたようである。相変わらず不器用で悪意のない無神経さでいる彼だが、このところなつに向ける視線が、以前のそれとは違っていた。……などと思っていたら、いきなりのプロポーズだ。このあたり、中川も表現するのが難しかったのではないだろうか。なつに向ける眼差しの強さで、彼の“恋”と“仕事”への姿勢を視聴者に混同させてはならないように思えたし、また逆に、混同させる必要もあったのではないか。恋へと発展するのか、どうなのか。私たちをジリジリさせなければならなかったのだ。


 坂場の言動ひとつをとってもそうだったろう。彼の持つ情熱と純粋さが向かっているのが、“アニメーター・なつ”へなのか、“一人の女性・なつ”へなのか、なつ自身と私たちとを絶えず困惑させなければならなかったのである。そうして、彼が「プロポーズ」という大きな行動を取ることで、演じる中川も「好意」というあからさまな表現を取ることを許されたのだ。ここまでは、その器用に示す不器用さで、私たちの感情を宙吊りにしてきた中川だが、これからは大胆さも必要とされるだろう。婚約は破綻してしまったが、さて、どうなるのか……。なつと正式なパートナーになることがあれば、感情のぶつかり合いが起こることも必至である。ここからが期待だ。


 そんな中川がいかに器用な俳優であるかは、彼のキャリアを振り返れば一目瞭然だ。まだ彼が10代の頃に、快活な17歳とうだつの上がらない27歳とを演じ分けた『ReLIFE リライフ』(2017)や、大人気マンガ・アニメの実写版『坂道のアポロン』(2018)に与えた再現度の高さと実在感。『花のち晴れ~花男 Next Season~』(2018/TBS系)で圧倒的な“王子様感”を披露したかと思えば、今年は、『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)で若手エリート弁護士でありながら素っ頓狂な姿も見せ、続く『賭ケグルイ season2』(毎日放送・TBS系)ではクールを装いながら下剋上を目論む策士を演じている。このように、異なるジャンル、異なるタイプのキャラクターにトライしてきたことが、『なつぞら』での“不器用さ”を表現する器用さにも繋がっているのだろう。


 坂場となつは、一体どうなるのか。ヒロインを演じる広瀬とともに中川は、これからゴールに向かってどのように駆けていくのか、あるいはこのまま離脱するのか。坂場はなつとともに、アニメーション界の新たな時代をつくる男となれるのか、そうではないのか。期待し、困惑しながら見守りたい。


(折田侑駿)