同士打ちが繰り返されたハースで、ロマン・グロージャンの去就が一気に話題に上がった。ヨーロッパのメディアは、「早ければハンガリーGP限りで放出される」「後任はエステバン・オコン」「いや、ニコ・ヒュルケンベルグだ」と、かまびすしい。しかしギュンター・シュタイナー代表は、これらの憶測を一蹴した。
一方、当事者であるグロージャン自身も、余裕の表情だった。気心の知れたフランス語系ジャーナリストだけが囲んだ取材だったこともあるが、そのあとのFIA会見での生真面目な表情とは真逆の、時には際どい比喩も飛び出す、弾けたやり取りに終始した。
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──今日(8月1日)は、スイスの建国記念日ですね(註:グロージャンはスイスとフランスの二重国籍)。ちなみにスイス国歌って、どんな感じですか?
ロマン・グロージャン(以下、グロージャン):え~と、歌詞は確か高山植物が出てきて、スイスアルプスが出てきて……。実は僕も含め、スイス国民の大部分は国歌を知らないんだ。ほとんど歌う機会がないからね。
──そうなんですか?! じゃあ、デンマーク国歌は知っていますか?
(グロージャンを筆頭に、一同大爆笑)
──それはさておき、ギュンター(シュタイナー代表)とは、その後話をしたのですか。
グロージャン:もちろん。電話で、いろいろ話したよ。ケビン(マグヌッセン)ともね。ケビンとはブダペストに来てから、いっしょにランチもした。こんなこと言うと、おかしいと思われるかもしれないけど、ケビンと僕の間にはこれっぽっちもわだかまりはないんだ。お互いのことを、尊重し合っているしね。
コース上でのケビンはバイキングみたいにアグレッシブで、そんなところが僕は大いに気に入ってる。自分の順位を守るために、壮絶に戦うドライバーだよ。そのチームメイトとしては、彼のそんな性格を十分に理解する必要があるし、僕はそれがしっかりできてると思っている。
たとえあんな風な接触が続いたあとでもその思いは変わらないし、尊重し合う関係も変わっていない。今後二度と、あんな事故を起こさなければいいだけのことなんだから。
──シュタイナー代表はあなた方ドライバーと話し合った後、「今後はチームオーダーを出す必要に迫られるかもしれない」と言ってました。
グロージャン:チームとしては、十分理解できる判断だと思うよ。僕らにしても、ドライバーズ選手権で13位とか17位をウロウロしてるのは決して本意じゃないしね。シーズンもここに来て、マシンの戦闘力自体にも疑問符が付き始めてるし、状況はできるだけ複雑にしない方がいい。
今はチームが総力を上げて、クルマをよくすることに努力を注ぐべきだからね。だからチームオーダーに関しては、あくまで暫定的な措置だと理解している。状況が改善したら、また自由に走れるようになると思う。
──あなたはマグヌッセンのアグレッシブな走りを評価するとのことですが、向こうは同じようなことを言っていないのですか?
グロージャン:そう言われると、ないね。
──それはつまり、今回の一連の出来事はマグヌッセン側のアグレッシブな走りが問題ということにはならないですか?
グロージャン:おいおい、そんなに僕にケビン批判をさせたいわけ? その手には、乗らないよ(笑)。努力は認めるけどね。
──どちらにも、責任があると?
グロージャン:そうとも言えるし、そうでないとも言える。永世中立だ。スイスなんだから(笑)。どちらにしても、こっちが悪い、いや向こうだとか、そういう不毛な議論はしたくない。お互い、十分に大人なんだしね。お互いにお互いの、長所も短所もわかってる。僕らはうまくやってきたし、これからもうまくやって行けるよ。オーバーテイクは、男女のアレと同じでね。片方が嫌がれば、絶対にうまくいかない(一同苦笑)。
■「チーム放出に足る理由が見当たらないよ」と残留に自信
──ドイツではあなたが開幕戦仕様、マグヌッセンが最新仕様と、かなり変則的なパッケージで戦いました。今後もそれは、続きそうですか。両者の折衷モデルというのは、ありえない?
グロージャン:夏休み明けのスパでどうなるか、今はまだわからない。確かなのは、開幕戦仕様のフロントウイングのパーツがもうないので、おそらくそこだけは新しい仕様になるかも。それでバランスが狂わないといいんだけど。今はっきり言えるのは、次の大きなアップデートは10月の日本GPに予定されてるということ。それだけだね。
──ずいぶん、先の話ですね。
グロージャン:そう。でも、待つしかない。
──今回の同士打ちに関しては、小松礼雄チーフエンジニアとも話した?
グロージャン:もちろん。アヤオとはもう10年来、ずっといっしょにやっている。仕事仲間であると同時に、家族ぐるみで付き合う友人でもある。今後のことも含めてじっくり話したし、アドバイスももらったよ。
──シュタイナー代表は、「来季はコース上の結果だけでなく、ドライバーの態度も考慮する。チームメイトとしてうまくやっていけるかも含めて」と言っています。
グロージャン:あくまで、メディア向けの発言だと思うな。確かに去年の僕は、いろんなことに苛ついてた。チーム内の人間関係に、ストレスを感じていたんだ。
でも一方でコース上では、しっかり結果を出していた。全部で6回リタイアしたけれど、一度も自分のミスが原因だったレースはない。完走したレースは自分なりにベストを尽くしたし、それはチームもよくわかってくれた。今年は去年ほどうまく行ってないけれど、決して破滅的な状況ではない。
──安らかな気持ちで、夏休みを迎えられそうですか?
グロージャン:去年以上にね。もちろんいろいろな動きはあるだろうけど、僕には関係ないと信じている。放出されるに足る理由が、僕には見当たらないよ。