レプソル・ホンダ・チームのマルク・マルケスがドイツGP10連勝を果たした理由。それはこれまで見たこともないような信じられないバンク角を使ったこと、そしてHRC(ホンダ・レーシング)の新フレームによりコーナーでのリスクを減らすことができたからに違いない。
2019年シーズンの折り返しとなる第9戦ドイツGPでマルケスが達成した66度のバンク角は驚愕だった。でもなぜ彼はそうしたのだろう? スリルがあるから? 称賛を得るため? そうではない。それはマルケスがホンダのマシンを高速でコーナリングさせるひとつの方法だからだ。
2019年型ホンダRC213Vの外見は、2018年型のものとほぼ一致しているように見える。だが実際は、バイクのシャシーは冬の間に大幅な再設計が行われた。
2019年のホンダの最大の目標は、馬力の増強であり、ストレートでドゥカティと肩を並べることだ。そのためマルケスはブレーキング中やコーナー進入時に多くのリスクを取らなくてもよくなった。
HRCのエンジニアがRC213Vのエンジンをどのように大幅に向上させたか正確なことが誰に分かるだろう? 我々に分かっていることは、プロセスの一部はインテークシステムとエアボックスの改良にあるということだ。
エアインテークをフレームの両サイドに配置し、エアボックスをエンジンハンガー(エンジンとフレームを連結する補強パーツ)の切取り口を通して入れる代わりに、今では空気はステアリングヘッドを通して直接入ってくる。
間違いなくこれにはフレームのフロント部分の完全な再設計が必要だった。必然的にフレーム剛性を変えることになり、バイクのコーナリング時の性能に影響が出ることになる。このことがおそらくカーボンファイバーでコーティングされたフレームの説明になるだろう。マルケスはレース後のヘレスとバルセロナテストでこれを試し、ドイツGPのレースウイーク中に初めて使用したのだ。
「今年のシャシーでは失った点もあるように見えるかもしれないけれど、他の点では向上している。僕にとって重要な点においてね」とマルケスは語った。
「なぜ僕たちがこの(新カーボンコーティングの)フレームを使うのかを話したら、僕は死んでしまう」とマルケスは笑って続けた。
「僕はやりすぎるほどにバンク角を深くする。なぜならバイクが曲がらないからだ。これだけ傾けるのは、これが僕のスタイルだったり好みだったりするわけではなく、必要だからやっているんだ。このフレームで、コーナリングをより改善しようとしている」
もちろんHRCはカーボンファイバーでコーティングされたフレームについてその背景にある考えを明らかにしないだろうから、推測するか、匿名希望のパドックのシャシーエンジニアからノウハウを少々聞きださないとならないだろう。
■新型カーボンフレームは後半戦でも登場するか
MotoGPバイクは、曲がるために側面のフレームのたわみが必要になる。コーナーにおいてバイクが横倒しになる時、グリップとコーナリングを改善するために、フレームはアスファルト上のバンプや凹凸に沿ってたわむ必要がある。
一部のシャシーエンジニアは、フレーム、スイングアーム、フォーク、トリプルクランプなどが側面にある種のたわみを作りだす必要があり、それによりホイールベースが実際にコーナーに沿ってカーブすることで、セルフターン効果が生み出せると考えている。
HRCの黒くコーティングされたRC213Vは明らかに何らかの方法でたわみを変えるように設計されているが、エンジニアたちが何を達成しようとしているのか、見ただけでは理解するのは不可能だ。
コーティングされた合金のフレーム自体は2019年の標準フレームとはわずかに異なっている。各スパー外部の縦の深部にあり、おそらくは縦方向の剛性を増強し、マルケスが楽にコーナリングができるように、側面のたわみがさらに軽減されているのだろう。
「新しいフレームにはポテンシャルがあるが、まださらに理解する必要がある」とマルケスはドイツGPのフリー走行を終えた後に語った。
「このフレームがあると速く走れるのは本当だ。でもレース距離でどうなるかは定かではない。レースには、もしかしたらもう少し品質を落としたものの方がいいかもしれないが、それがどう反応するかは分かっている」
おそらく黒いフレームについて最もクレバーな点は、HRCが迅速にフレーム剛性を変更でき、テストライダーのステファン・ブラドルとレギュラーライダーたちが、より多くの選択肢を評価できることにあるだろう。
MotoGPのフレーム組み立てには1週間はかかる。機械加工をし、溶接し、熱処理などを行う。一方でカーボンファイバーコーティングのフレームは(ほとんどの場合オートクレーブの中で)数時間のうちに装着できる状態になる。
HRCは、カーボンファイバーの厚み、織り、配向に変化を持たせることで、さまざまな剛性をさまざまなエリアに適用できる。たとえばマルケスがドイツGPのフリー走行で試したコーティングフレームは、彼がヘレスでテストしたものとは異なるものだった。
結局のところ、この複合材のコンセプトが、理想的な剛性を見出し、同じ剛性をコーティングのないフレームで再現するための単なる開発プロセスの一部なのか、また、マルケスが複合材フレームをすぐに後半戦のレースで使うのかどうかは分からない。