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山田涼介、中村倫也、宮沢氷魚 人生に疲れたヒロインを優しく癒やす“ビューネくん系男子”に注目!

2019年08月02日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『凪のお暇』でゴンを演じる中村倫也 (c)TBS

 彼らの存在は、はっきり言ってファンタジーだ。『セミオトコ』(テレビ朝日系)で山田涼介が演じる“セミの王子様”、『凪のお暇』(TBS系)で中村倫也が演じるイベントオーガナイザーのゴン、そして『偽装不倫』(日本テレビ系)で宮沢氷魚が演じるカメラマンの丈。夏ドラマに登場したこの3人は、イケメンなだけでなく、人生に迷うアラサーのヒロインたちと出会い、彼女たちを批判したり否定したりすることなく、「お仕事、お疲れさまでした。よく頑張ったね」「そのままの君でいいんだよ」と全面的に肯定してくれる。CMでおなじみの“ビューネくん”のような癒し系男子たち。非現実的なほどに優しく、ヒロインの毎日をキラキラと輝かせてくれる彼らは、この猛暑のように厳しい世の中に疲れた女性たちにとって一服の清涼剤になっている!?


参考:宮沢氷魚が語る、『偽装不倫』で学んだ恋愛ドラマの醍醐味 「100%ときめかせたい」


■『セミオトコ』のセミオ(山田涼介):ビューネくん度★★★


 『セミオトコ』のヒロインは、木南晴夏が演じる薄幸い境遇の由香だ。地方から出てきて東京郊外のアパート「うつせみ荘」でひとり暮らし中。食品工場に勤めているが、弁当の販売で人前に出ることが苦手で、友達や恋人もいない。子どもの頃から存在感がなく、両親にすら「こいつ、つまんない」と言われてきた。そんな彼女の前に、成虫になったばかりのセミオトコが人間の姿になって現われる。実はセミオトコが土中から出てきて羽化する際、由香は2階から庭に転落したのだが、セミの姿を見て咄嗟に体をひねり、セミオトコの命は助かった。彼はそのお礼をするため人間の姿になって由香の部屋に現われたのだ。まるで「鶴の恩返し」の男女逆セミバージョンといったところで、由香は人間離れした美形の彼に「恩返しになんでもします」と申し出られ、戸惑いつつも「『生きていていいんだよ』って言って、そっと抱きしめてください」とささやかだが切実なリクエストをする。由香が求めていたのは、何よりもまず承認欲求だったというのがせつない。その願いを叶えてくれたセミオトコは、7日間の短い生を彼女と共に過ごすことにするのだった。


 セミが人間に変身するという舞台作品でもなかなかなさそうな大胆設定の下、妖精のような難役を演じているのはHey!Say!JUMPの山田涼介。芸能界にイケメン多しといえども、ここまで少女漫画のように目をキラキラさせられる人は他にいないし、カメラ目線のショットに耐えうる顔面力と安定感もさすが。リアクションも多彩で、シリアスな『カインとアベル』(フジテレビ系)から、そのパロディのような『もみ消して冬』(日本テレビ系)まで、近年の出演ドラマで広げてきた演技の幅もここで生かされているようだ。


■『凪のお暇』の安良城ゴン(中村倫也):ビューネくん度★★☆


 『凪のお暇』の中村倫也はやばい。原作コミックでのゴンは長髪のドレッドヘアで怪しげな男に見えるのだが、ドラマで中村が演じるゴンは髪型もさっぱりしていかにも優しげ。これは危険すぎる。こんな隣人がいてお皿を返しがてら「ごちそうさま」とふんわりハグしてくれたり、事あるごとに至近距離で「かわいいね」と言ってくれたりしたら、主人公の凪(黒木華)でなくても女性100人中90人は落ちる! ましてや元カレ・慎二(高橋一生)のモラハラぶりに疲れ、この支配から卒業したいと思っている凪にとっては、光のような存在になってしまうのも無理はない。しかし、原作を読んだ人は知っているとおり、第3話(8月2日放送)からは、そんなゴンのダークサイドが見えてくる。予告編で流れているように、ゴンが仲間うちで「メンヘラ製造機」と呼ばれているのはなぜなのか? 凪はそれを知らずにゴンと深い関係になってしまうのか? 今後は、「ビューネくん系男子と本気で付き合うと、こんなえらいことになる」という女性の夢を打ち砕くような展開になりそうだ。


 中村倫也は、『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)では、好きな女性に対して一途だが引き際も心得ている至極まっとうな男を好演した。今回のゴンは真逆で、どこか壊れているような役柄だが、そのまっとうでない感じをどこまで出すかに注目だ。ゴンの空虚さを体現しつつ、女性視聴者に嫌われないというのはなかなか高度な技が必要になりそう。


■『偽装不倫』の伴野丈(宮沢氷魚):ビューネくん度★☆☆


 『偽装不倫』で宮沢氷魚が演じる丈(じょう)は、『凪のお暇』のゴンや慎二とは違って、女性の抱く幻想を具現化したような男性である。背が高くて涼やかなイケメン、紳士的で優しく、職業はカメラマンでヨーロッパ帰り。まるでハーレクイン小説に出てくるようなハイスペック男子なのだが(収入だけは高くない様子)、なぜか結婚していると嘘をついた鐘子(杏)にアプローチしてくる。鐘子はその理由も分からないまま、彼の心をつなぎとめるために不倫を装うことに。丈に「僕と旅に出よう。2人で銀河鉄道に乗りたい」「鐘子さん、会いたかった」とストレートに愛を伝えられ、照れながらも、生き生きとしてくる。しかし、第4話(7月31日放送)では、病を抱える丈が不倫の関係を望んだ理由が明らかになった。自分が死んだ後に恋人を悲しませたくないから、鐘子が既婚者であることにかえって安心して付き合っていたとは、なんと不憫な……。『セミオトコ』と共通するカウントダウン感がある。これからは丈が「うっ」と言って頭を抱えるたびに、こちらも心配になってしまうので、癒し系としてはちょっとマイナスか。


 宮沢氷魚はどこかさびしげな表情を浮かべた自然体の演技で、絶妙なエモさを醸し出している。『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)で横浜流星がブレイクしたように、女性を一途に想う年下の男を演じた俳優は、人気に火がつく傾向がある。宮沢が2019年後半のブレイクスターになるかも注目だ。


 以上、3人のビューネくん系男子。彼らが癒やすのはいずれもアラサーの女性。『凪のお暇』と『偽装不倫』は原作の連載開始時期が違うので誤差があるが、ざっくりくくれば、ヒロインたちは元号が昭和から平成に代わる頃に生まれ、ものごころついた頃にはバブルは崩壊し、その後、希望の見えにくい長いデフレの時代を生きてきた。由香は賃金の低い工場作業員で、凪は企業の事務職(しかもドロップアウトした)、鐘子は派遣社員だ。思うような職に就けず、収入は低い上に安定せず、さらに恋愛も上手くいかず結婚する見込みもない。そんな現代日本のアラサーたちが男性に癒しを求めたところで、ヒロインと同世代の女性たちがドラマの中でぐらい夢を見たいと思ったとしても、いったい誰が責められるだろうか。(小田慶子)