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絶好調続く『天気の子』 もはや避けることができない宮崎駿との比較

2019年07月31日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『天気の子』(c)2019「天気の子」製作委員会

 『天気の子』が公開2週目に入っても絶好調を維持している。先週末の土日2日間の動員は70万4000人、興収は10億1200万円。公開からわずか10日間、7月29日(日)時点で累計動員287万人、累計興収39億円を突破している。前週の当コラム(『天気の子』大ヒットスタート 万人向けだった『君の名は。』とは違う、その魅力とは?)では作品を高く評価しながらも興行面においては少々慎重な見解を述べたが、新海誠監督は今作でほぼ間違いなく、『君の名は。』から2作連続で100億円突破するという偉業を成し遂げることになるだろう。


参考:『天気の子』大ヒットスタート 万人向けだった『君の名は。』とは違う、その魅力とは?


 同じ日本人監督による日本国内での2作連続興収100億円突破がどれだけすごいことかというと、実写映画監督を含めても前例は宮崎駿監督ただ一人だけ(『踊る大捜査線』シリーズで本広克行監督も興収100億円突破を2回しているが、監督作としては連続していない)。宮崎駿監督が2作連続で興収100億円突破を成し遂げたのは1997年の『もののけ姫』から2001年の『千と千尋の神隠し』にかけてのことだから、もう20年近く前の出来事になる。その後、『ハウルの動く城』(2004年)、『崖の下のポニョ』(2008年)、『風立ちぬ』(2013年)と5作品連続で興収100億円突破を記録していて、現在もその記録は継続中である。


 興収面においては、宮崎駿監督以外に国内で比肩する存在がなくなった新海誠監督。今年6月、中国全土の9000以上のスクリーンで『千と千尋の神隠し』が18年越しに初公開されて、同日公開された『トイ・ストーリー4』の約3倍にあたる4億元(約62億円)を2週間で稼いだ(契約の条件にもよるが、現在スタジオジブリが製作中の宮崎駿監督新作の制作費の面でも大きな助けとなったかもしれない)というニュースが報じられたばかりだが、海外でも強いのは新海誠監督作品も同様。加えて、『君の名は。』は現在、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのマーク・ウェブが監督、『メッセージ』やNetflix『バード・ボックス』のエリック・ハイセラーが脚本、現行『スター・ウォーズ』シリーズのJ・J・エイブラムス率いるバッド・ロボット製作という超強力な布陣で実写映画化の企画が開発中。8月に入ってから各国で順次公開(北米公開は2020年)される今回の『天気の子』も、『君の名は。』以上のヒットが期待されている。


 このようなことを書くと、日本国内ではまだ「いやいや、宮崎駿と比べるのはまだ早いよ」という声も上がるだろうし、何よりも(当然のように)その強い影響下にある新海誠本人が「宮崎駿監督と比較されるのは畏れ多い」という趣旨の発言をしばしばしているが、新海誠監督はまだ46歳。ちょうどその年齢の時期の宮崎駿といえば、スタジオジブリを設立して、その第1弾作品として『天空の城ラピュタ』(1986年)が公開されて、続く『となりのトトロ』(1988年)の制作に入っていた頃。そう考えると、少なくとも作品が社会に与えているインパクトの大きさやそのリアクションにおいては、十分に比較し得る存在だと自分は思う。


 ある時期以降の宮崎駿作品がそうであるように、あるいは『天気の子』の劇中でも直接的、間接的に参照されている村上春樹(同じく海外でもその作品が広く支持されている)の小説がそうであるように、国民的コンテンツとなった作品に対する風当たりはいつの時代も強い。『天気の子』に関しても、(マスコミ試写が行われずに)公開されてから2週間が過ぎようとしている現在、批評家や新海誠ファンや一般的な映画ファンといった各方面からの賛否の評や意見が寄せられている。その中でも多くの人が指摘しているのは(そして新海誠監督自身も認めているのは)、『天気の子』は、『君の名は。』に寄せられた世間の声に対する「リアクション」という側面が大きい作品であることだ。世評に敏感であるということは、新海誠という作家及びその作品の長所の一つであり、これまでの日本のトップ・クリエイターにはあまり見られなかった特質かもしれない。そうした「ファンダムとの付き合い方」における現代性も含めて、やはり新海誠は今回の『天気の子』で名実ともに「大御所」となったと言えるのではないだろうか。(宇野維正)