一時は現役復帰を絶望視された男が、再び栄冠を手にした。第11戦ドイツGPでダニール・クビアトが果たした3位入賞は、トロロッソにとっては2008年のセバスチャン・ベッテル以来の二度目の表彰台だっただけでなく、中団チームが今季初めて獲得した表彰台でもあった。3強チームだけが独占してきた表彰台という高い壁を、クビアトとトロロッソ・ホンダがついに越えたのである。
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――久しぶりの表彰台、喜びもひとしおでしょう。
ダニール・クビアト(以下、クビアト):最高の気分だよ。これだけ長い間、表彰台を獲得できずに来たトロロッソに、この結果をプレゼントできたのも本当によかった。レースはクレイジーとしか言いようのないものだったけど、すべてをあるべき場所に収めることができたのが、勝因だったと思う。
――前の晩に長女が生まれて、パパになったばかり。これ以上はない、最高の出産祝いになりましたね。表彰台を確信したのは、いつの時点でしたか。
クビアト:ものすごくたくさんのことが、目まぐるしいテンポで起き続けた。それはレースに参加していた誰にとっても、そうだったと思う。スタート直後は、まあまあだった。10番手前後を走っていて、この調子なら何ポイントか取れそうだと、そんな感じだったんだ。
実はドライタイヤには二度履き替えてるんだけど、最初のソフトタイヤは完全にタイミングが早過ぎた。でも二度目は、完璧だったよ。そして他のドライバーたちがまだ誰もスリックに交換していないのを見て、これはもしかして大当たりかもと思ったね。
実際その通りで、コース復帰したら3番手に大躍進してたんだ。そのあと(ランス・)ストロールを抜いて2番手に上がってからは、後ろから来る僕より速いクルマが、僕に追い付くのにできるだけ時間がかかってほしいと、それだけを念じてたよ。
結局はセバスチャンにかわされてしまったけど、それは仕方がない。3位表彰台は、十二分にハッピーだ。11年も待ち続けたチームにとってもね。何たって、2008年のセバスチャン以来なんだから。もちろん僕はこの3位表彰台を恋人のケリーと、生まれたばかりの娘に捧げるよ。
――ここ数年のあなたのレース人生は、ジェットコースターのように目まぐるしく上下していました。この3位表彰台でその逆境を跳ね返し、再チャンスを与えてくれたトロロッソへの恩返しにもなりましたね。
クビアト:本当に、そう思う。僕の人生で、この数年は本当に波乱の時期だったからね。厳しい出来事が続いて、一時はF1自体をあきらめかけたこともあった。もし万一現役復帰できたとしても、表彰台に上がれることは二度とないと思っていたしね。
でもそのまさかが、起きたんだ。最後まで冷静に走れたけど、今まで両肩にのしかかっていた困難な3年間という重しが、チェッカーの瞬間に一気に消えてなくなった気がしたよ。
3年間の鎖から、解き放たれたんだ。これが最後の表彰台だなんて今はもう思わないし、今後はコンスタントに表彰台を狙えるようになりたいね。表彰台に上がったという事実は、本当に強烈なメッセージだと思うよ。
■朝の7時に電話をかけてくるマルコ博士
――あなたにとってヘルムート・マルコ博士は、表彰台に上がった他のふたり以上に特別な存在なのでは?
クビアト:まったく、その通りだね。僕の人生で、これだけジェットコースターのような気分を味合わせてくれたのは、ヘルムートだけだから!本当に特別な存在だ。そして今の僕があるのは、今の僕でいられるのは、こうして個人的にもレーシングドライバーとしても成長できたのは、まさにヘルムートのおかげだよ。
僕らの間にはものすごくたくさんのことが起きて、その多くはとても共有できるものじゃない。ひとつだけ、電話魔ヘルムートのエピソードを紹介しようか。あれは僕がまだフォーミュラBMWを走ってる時だったけど、最初のウエットテストで3~4秒遅かったんだ。
そしたら翌朝の7時に電話してきて、「お前はウエットでは使い物にならないな」とだけ言われて、ガチャンだったよ(笑)
隣のマックス・フェルスタッペン(以下、フェルスタッペン):ヘルムートの真似が、メチャクチャうまいね!
クビアト:すごく練習したし、いつも聴いてたからね!まあ、いつもそんな調子さ。ヘルムートはいつも厳しく当たるけど、でもほとんどの場合、彼が正しい。言われた時は当然へこむけど、じゃあなぜなのか、どうすればいいのかと、改善して行く。その繰り返しだったね。ヘルムートがその価値があると思う限りは、必ずチャンスを与えてくれる。そのことに僕は、今も感謝してるよ。
フェルスタッペン:今も7時に起きているわけ?
クビアト:そうなんだよ。彼のおかげで、毎朝7時に起きる習慣ができてしまったよ。
――このレースはあなたの中で、クレイジーさで言ったらどの順位にランクされますか?
クビアト:かなり上位なのは、まちがいないね。今シーズン初めてのウエットレースだった。ということは今年投入された新開発のレインタイヤを使うのが、誰もが初めてだったということだ。
実際のレースでどう機能するのか、誰にもわからない状況だった。スタート直後は凄い水しぶきで、前がほとんど見えなかった。それから急速に乾いて行って、スリックに履き替えるボーダーラインに来た。まさにそのタイミングだよね、絶対にミスを犯してはいけないのは。
ブレーキングで簡単にタイヤをロックするので、コース内に留まってるだけで必死だった。
今日のレースは結局のところ、いかにミスを犯さず、いかに的確なタイミングで正しいタイヤに交換できたかにかかっている。それって外から観てたら、さぞ楽しかったと思う。あなた方は、幸運だよ。